上空を流れるジェット気流の速度は時速442キロにも達するため、気球が巻き込まれれば針路を制御することは困難にも思える。飛行船にとって、風は高度がかなり低い空域であっても大きな問題だ。第1次世界大戦で英国軍爆撃に出動したドイツ軍のツェッペリンは、目的地に到達するのにさえ苦労した。1917年の空襲では強風に見舞われ、11隻のうち帰還したのは7隻だけだった。
その後、大気圏の解明が進むと、状況は一変した。大気圏のモデリングとアルゴリズムの性能向上により、気球は風向きに応じて高度を変えて希望の方向に進んだり、地上の特定箇所の上空を周回したりすることさえできるようになった。グーグルの親会社アルファベットの「Project Loon」はこうした技術を搭載した気球を使い、2017年にハリケーン「マリア」の被害を受けた米領プエルトリコの市民10万人にインターネット接続を提供した。
米軍は何年も前から同様の気球を試験している。2018年までには、気球を24時間にわたり約48キロ圏内にとどまらせられるようになり、その後も着実に改良が進んでいる。米国防総省の研究機関、国防高等研究計画局(DARPA)は「順応型軽航空機(ALTA)」計画で、風速と風向きを遠隔検出する新型のレーザーセンサーを開発。これは好条件の風を迅速に見つけられる画期的な技術となりそうだ。
中国もまた、操縦可能な高高度気球の研究に取り組んでいる。特に、北京の中国科学院光電研究院は、2005年に軽航空機研究所を設立し、高高度気球や「成層圏飛行船を含む現代飛行船」の研究をしている。
同研究所の研究者が書いた論文はほとんど公開されていないが、高高度気球の太陽光発電パネル(撃墜された気球にもこうしたパネルが搭載されていた)、制御システム、着氷防止、気球のプラスチック外装の強化に関する研究が行われている。2011年に発表された成層圏飛行気球が特定地点の上空に留まり続ける方法についての論文は、北京航空航天大学と米マサチューセッツ工科大学(MIT)の共同研究で、米国がこの技術の用途を認識する前のものだった可能性がある。