北米

2023.02.12 14:00

車でAMラジオが聴けなくなる日 EVで排除進む

ラジオの電波塔(Photo by David Goldman/MediaNews Group/Boston Herald via Getty Images)

ラジオの電波塔(Photo by David Goldman/MediaNews Group/Boston Herald via Getty Images)

AMラジオの放送はいまではスマートフォンでも聴けるし、車の中でスマートフォン経由で流している人もいるだろう。とはいえ、技術的な問題からAMラジオの受信機を搭載しないEV(電気自動車)が増える現在、何かが失われつつあるのもまた確かだ。
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自由度の高いメディアであるAMラジオは、米国、とくに「ハートランド」と呼ばれる中西部において、情報や娯楽、文化的アイデンティティー、政治などの面で重要な役割を果たしてきた。だが、EV革命の進展にともなって新車から排除されるようになってきたことで、行く末に暗雲が漂っている。

これまでに、テスラやボルボ、BMWなどが、販売・開発しているすべてのEVでAMラジオを非搭載にしている。いずれも、EVの推進システムから発生する強力な電磁力による干渉を防ぐのが難しいことを理由に挙げている。業界関係者によると、AMラジオを搭載する車は、米連邦通信委員会(FCC)が定める放送品質の信号要件を満たす必要があるという。FMラジオや衛星ラジオ、インターネット経由のチャンネルなど、ほかの車載オーディオシステムはこうした電磁力の干渉を受けない。

フォードも、同社の主力ピックアップトラック「F-150」のEV版「ライトニング」で、AMラジオを外している。米国販売台数1位のF-150ガソリン車のオーナーは何百万人、あるいは何千万人とおり、AMラジオをこよなく愛する人たちなのだが、それでもEV版では搭載されなかった。
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ベビーブーム世代は、日が暮れるとAMラジオのダイヤルをいじってはデトロイトの「WJR」やシカゴの「WGN」といった放送局に周波数を合わせ、そこから流れてくるお気に入りのポップスやロックを聴いて育った。米国の内陸部はおおむね平坦な地形なため、AMラジオの電波は日中も地上の障害物の影響をあまり受けず、夜間は電波が大気上層部の電離層で反射するのでさらに遠くまで届く。

大リーグの中継は現在もAMラジオで聴けることが多い。ミシガン州の出身者なら、夏に湖畔でくつろぎながら、アーニー・ハーウェルが雑音混じりに伝える、地元デトロイト・タイガースの実況中継に聴き入った思い出がある人もきっと多いだろう。ウィスコンシン州の田舎に住むミルウォーキー・ブルワーズのファンたちは、「(打球が)伸びる、伸びる、行ったー!」というボブ・ユーカーのおなじみのホームランコールを、いまもラジオで聴いて盛り上がっている。

ラッシュ・リンボーは全米各地のAMラジオ局で舌鋒をふるって大勢のリスナーを獲得し、歴史を変えるほど大きな影響力をほこった。また、どこの農家も、天候や商品価格の情報を得るうえでAMラジオを頼りにしている。中西部では、小規模なAMラジオ局が地域社会の重要な通信拠点となっているところがまだまだ多い。長距離トラックの運転手には、FMラジオや衛星ラジオよりも、AMラジオの番組や、そこでの司会者やほかのリスナーたちとのつながりが好きだという人も少なくないはずだ。
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編集=江戸伸禎

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