今こそ、親が元気なうちにやっておけることを知ったり、相続についての最低限の基礎教養を身内に蓄えることを考えてみるべきではないだろうか。
ベストセラー『相続格差』は、相続専門税理士の天野隆氏が、これまで扱った2万件以上の相続例から分析した「モメない分け方」のコツや、円満相続の秘訣を伝授し、相続の幸福について考える1冊だ。
天野氏がたどりついた「相続で縁が切れる家族」「仲が深まる家族」の分岐点とは──。
3回にわたり、同書からの転載で紹介してきたが、今回はその最終回。相続に絡む夫婦トラブルを避けるためにも、「夫婦で共有しておくべき情報」について解説する。
互いの実家の相続はオープンにしておく
わが国では平均寿命が長くなったために、二次相続が発生するときの子どもの年齢は60歳前後が一般的です。つまり、その時期に、夫婦それぞれに親の相続が発生するわけです。このときのコツとしては、相続の内容を隠さずに伝えることです。相続した財産をどう処分するか、どう使うかまでいう必要はありませんが、いくらもらったか、くらいはオープンにしたほうが、あとあとの夫婦関係にとってよい結果になると私は考えます。ついでにいえば、自分が亡くなったときの相続も、事前に夫婦で話し合っておくのが理想的です。
一流企業を勤め上げた私の友人なのですが、何人かで食事に行ったときに、どうも支払いが渋いということがありました。高給取りだったのに変だなと思ってわけを聞くと、奥さんが全部家計を握っているというのです。自宅もあって特別な出費があるわけでもないのに、自由に使えないらしいのです。
奥さんの実家で相続が発生したものの、奥さんは相続放棄をして、弟にすべて渡したとのこと。これを聞いて、私は内心「本当かなあ」と思いました。ある程度の財産をどこかに隠しているかもしれません。もっとも、解明する必要はありませんから、彼の自虐ネタとして笑って聞くだけでしたが。
私がそう思うのも、実際の相続の現場でこんなことがよくあるからです。遺産分割協議が済んで、それぞれの分け前が決まったとき、「うちの家族には伝えていないので、内緒にしてくださいね」と私にいう女性が結構いらっしゃるのです。へそくりを蓄えておく感覚なのかもしれません。