これを機会に、親がまだ元気な場合も、ゆくゆくの相続について情報を集めておくべきかもしれない。また、「円満な相続」と「トラブルまみれの相続」の違いがどこに起因するかにも注意しておく必要がありそうだ。
ベストセラー『相続格差』は、相続専門税理士の天野隆氏が、これまで扱った2万件以上の相続例から分析した「モメない分け方」のコツ、円満相続の秘訣を伝授し、相続の幸福について考える1冊だ。
天野氏がたどりついた「相続で縁が切れる家族」、逆に「仲が深まる家族」の分岐点とは──。
同書からの転載で、3回にわたって紹介する。
「親の課題」と「子の課題」は別物
親子のすれ違いの要因の1つは、子どもの課題を親が自分自身の課題だと思い込むことにあるとアドラーはいいます。そうして解決できるはずのない課題を、なんとか思い通りにしようとして悩んでしまうのです。例えば、子どもがひきこもりになってしまったとき、親はどう考えるでしょうか。
「子どもにいい人生を歩んでもらいたいのに、子どもがひきこもってしまった。私がなんとかしないといけない」
こういって悩むのが普通の親でしょう。しかしアドラーは、他人を抑え込むのはそもそも不可能だと述べています。つまり、ひきこもった子どもをなんとか外に出そうとしても、それは無理だというわけです。そして、自分の力ではどうにもならない課題を、なんとか解決しようとして翻弄されることが「悩み」なのだといいます。
アドラーは、引きこもりは親の課題ではなく、子どもの課題だとしています。なぜなら、引きこもって最終的に困るのは誰かというと、子どもだからです。
ですから、親は自分の課題ではないと考えて、「留守番してね」といって遊びに行ったほうが、自分自身にも子どもにとってもいいという話なのです。そうすれば、最終的には引きこもらなくなるだろうといいます。
以上は1つの例ですが、だいたい親の悩みのほとんどは、課題の分離ができていないことによります。何が親の課題であり、何が子どもの課題であるかをきちんと分けて考えなくてはいけません。
誰の課題なのかは、最終的な結果が誰に降りかかるかを考えればわかります。子どもが自分の将来をどうするかは子どもの課題です。親はそれを解決できないのですから、近くで見ているしかありません。
もし、子どもから何らかのシグナルが送られてきたら、「どうかした?」「どうしたいの?」「私にできることある?」という3つの言葉を口にすればいいのです。
この課題の分離という考え方は、私にとって非常に新鮮なものでした。近頃問題になる親離れ、子離れがうまくいかない家庭は、この課題の分離ができていないのかもしれません。