中国とインドは現在、もっぱら石炭を使って経済を動かしている。しかし、人々の生活を改善しつつ、気候変動危機を緩和し、多国籍企業を引きつけるためには、ネットゼロの達成が不可欠だ。
アジアは今後も、世界最大の石炭消費地であり続けるだろう。ただし、ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)の予想では、石炭消費量は2027年にピークに達したのち、再生可能エネルギーがそのシェアに食い込んでくるとみられる。
世界の二酸化炭素(CO2)総排出量のうち8%を占める鉄鋼業を例にとろう。現在のスチール(鋼鉄)は、鉄鉱石(酸化鉄)と原料炭を使って製造されている。原料炭の代わりに、製造時にCO2を排出しない「グリーン水素」を使用することで脱炭素化は可能だが、実現にはグリーン水素のコストが大幅に下がらなくてはならない。
コストを削減するには、政府による支援がさらに必要だ。鉄鋼メーカーの独ティッセンクルップ、日本製鉄、スウェーデンのSSABはすでに、「CO2を排出しないスチール」を製造している。一方、豪フォーテスキュー・メタルズ・グループは2027年までに、平均的な製鋼所45カ所の稼働に必要な量のグリーン水素を製造したい考えだ。
中国とインドでは、経済の発展に伴って、より多くのスチールが必要になる。新たな建物やインフラ、再生可能エネルギー発電所などを建設するためには、鋼鉄が必要不可欠だからだ。
認証サービス会社DNVが実施した調査研究によると、風力発電と太陽光発電によって製造されたグリーン水素は、2050年には世界のエネルギー需要の5%を満たすようになる見通しだ。一方、国際エネルギー機関(IEA)は、この割合が2050年までに10%になると予想している。だが、パリ協定で掲げられた目標を達成するには、この数字が13%に到達する必要がある。グリーン水素の導入初期には、スチールの価格は20~30%高くなるとみられる。
インドの製鉄会社タタ・スチールのラジブ・マンガル元社長兼最高経営責任者(CEO)は、1月に開催された国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の会合で記者たちに対し、「政府は、この技術を開発するための環境づくりができる」と述べた。「カーボンプライシング(炭素価格付け)を導入すれば、それが実現するだろう」