VUCAの時代に企業が生き残るためには、DXを果敢に推進し、アジャイルな対応が可能なケイパビリティを有する必要がある。しかし日本企業の多くは、IT人材の不足に頭を抱えている。
そうした状況を打開するソリューションを提示しているのが、グローバルで100万超のユーザーを擁し、国内20万超の組織で導入されているローコード開発ツール Claris FileMaker (以下、ファイルメーカー)を展開する、クラリス・インターナショナル(以下、クラリス)だ。
鍵となるのは、非エンジニア人材の活用だ。さらに現場で業務を遂行する人材が、直接ITシステム開発にかかわることで、企業のアジャイルな組織への変革が促進されるという。いったいどのようなソリューションを編み出したのだろうか。
誰でも開発者の時代に
オラクルなど数々の著名ハイテク企業を経て、クラリスCEOに就任したブラッド・フライターグ。同氏はIT業界の現状をどのように見ているのだろうか。
「ここ数年のテクノロジーの進化で、ソフトウェアのインターフェイスが扱いやすいものになり、すべての人がマルチデバイスを使えるビジネス環境へと社会は大きく変化しました。
私がエキサイティングに感じているのは、そうした背景から、ソフトウェア開発に無縁だった人々が、私たちのローコード開発ツール『ファイルメーカー』およびそのプラットフォームを使うことで、ソフトウェア開発に乗り出したことです。人々のマインドセットが、変わったのです」
ファイルメーカーは、非エンジニアでも特別なプログラミング言語を使用せずにソフトウェア開発を行えるツールだ。それにより、新たに人を雇い入れることなく、社内の慢性的なIT人材不足を解消することができる。
さらに現場担当者が、自分たちの使いやすいように自らの手でソフトウェアの機能を実装していけるので、自社業務に最適化したソフトウェアを生み出せるのだ。それは当然、企業のケイパビリティを高めることにもつながっていく。
アウトソーシングの限界
日本国内を見渡すと、企業の約7割がアプリ開発を外部の開発会社にアウトソーシングしているのが現状だ。一方米国の企業では、かなりの割合で社内にアプリ開発者を抱えていると、フライターグは指摘する。
「どちらも重要なのですが、アウトソーシングには、システム要件をまとめて、情報システム部を通じて外部委託企業に伝え、開発を行っていくプロセスが必要になり、時間とコストがかかります。しかしいまはVUCAの時代であり、半年〜1年かけているうちに、求める機能が変わってしまうかもしれないというリスクがあります。
アプリ開発の内製化はDX推進に欠かせない、現場とのコミュニケーションが密になるというメリットがあります。現場担当者自身が開発に当たればなおさら、課題解決の時間は限りなく短縮されます。
そして社内でたくさんの人々が問題を理解、共有しているという事実が、企業成長のための武器、差別化戦略にもなるのです」
具体例としては、現場パイロットが「空の安全」実現のための訓練評価システム「JAL CBCT」を自ら開発した日本航空の例がある。経営破綻の危機から予算不足に陥ったものの、安全を担保するために現役パイロットが自らプログラム開発に乗り出し、アジャイルに課題を解決していったことで大成功を収めた。いまではその取り組みは、客室を担当するキャビンアテンダントが自らソフトウェア開発を行うまでに広がりを見せている。
アジャイルな組織への変革に必要なこと
フライターグ自身も、クラリスをアジャイルな組織へと変革するタフな取り組みを行った張本人である。
「2019年にCEOに就任した1年後、コロナ禍に見舞われ、オフィスがすべてシャットダウンしてしまったのです」
この危機を乗り越えるために何をすべきなのか、彼は悩んだ。
「突破口となったのは、若手エンジニアの提案でした。彼の言うアジャイルな開発体制への移行というアイデアを聞いているうち、その秘めた可能性に私はすっかり魅了されてしまいました。
“クラリスはアジャイルな組織へと生まれ変わる”。これが私のたどり着いた決断でした。もちろん、改革の実現のためには大きなパワーが必要でした。想像以上にチェンジマネジメントに抵抗する勢力も強かったですね。
しかし私はあきらめず、アジャイルな開発体制への移行をやり遂げる決意を広くアナウンスし、そのための投資を続けることを表明しました。なぜなら組織を変革するには、自信に満ちた強いリーダーシップが必要だと信じていたからです。
意志を確実に伝えるために、当初は小さなグループから対話を行い、そこからリーダー、スクラムチーム、組織全体にビジョンを伝えていきました。意志決定のプロセスに現場を巻き込むことによって、組織の意志を全社員が把握できるようになるからです。これはDX推進のために、何より必要なプロセスだと思っています。結果、従来18カ月かけていた製品リリースサイクルを、3カ月にまで短縮することができました」
未来の開発者を育てる
外部コンサルタントを活用してDXを推進している経営陣には、継続的な協力を得られるかという不安がつきまとう。社内にスキルが蓄積できず人材も育たず、自社のケイパビリティが高まらないのも、悩みの種だ。
クラリスはそうした企業の非IT人材のステップアップをサポートするために、「ファイルメーカー」の学習プログラムを日本語でも用意している。
その中身は、エンジニア/非エンジニアを問わず学べるように構成され、テキストやeラーニングのコンテンツ、アプリ開発体験セッションなどが、すべて無料で提供されている。その目的について、フライターグはこう述べる。
「すべては将来への投資です。彼らがそこで学び、クラリスのローコードプラットフォームを活用しながら、開発のエキスパートとなり、イノベーションを起こしていけるようになること。それが私たちの製品の提供価値なのです」
Claris
https://content.claris.com/ja/fj2
ブラッド・フライターグ(Brad Freitag)◎ハイペリオン・ソリューションズ(現・オラクル)や IBMなどを経て、2013年にファイルメーカー(現・クラリス・インターナショナル)入社。19年にCEOに就任。