米製薬会社、効能の低い薬に巨額の宣伝費 その理由は?

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製薬会社による処方薬の消費者向け直接広告が認められている米国では、大手各社が効能の低い薬の広告に巨額を費やしているとする研究論文が7日、米国医師会雑誌(JAMA)に発表された。こうした広告を禁止すべきという議論が高まる中、この米国独自の慣行に新たな光が投げかけられた形だ。

2020年の売り上げ上位だった処方薬150製品をジョンズ・ホプキンス大学の研究チームが分析した結果、健康効果の低い薬の広告に割り当てられた消費者直接広告費用の割合は、健康効果の高い薬よりも平均14.3パーセント多かった。

米国で人気の処方薬の3分の2近く(データを得られた135製品のうち92製品)については、フランスとカナダでは患者にとって付加利益が低いと保健機関によって評価されているという。海外の保健機関のデータを使用したのは、米国には処方薬の効果を比較する機関がないためだ。

処方薬のために費やされている広告宣伝費の額は実にさまざまで、1製品当たり額の中央値は2090万ドル(約27億円)、宣伝費全体に占める割合の中央値は13.5%だった。

売り上げ上位6製品のメーカーは、HIV、多発性硬化症、がんの治療薬について、販売促進予算の90%以上を医師ではなく消費者向け直接広告に使用している。一方、メタボリック症候群や消化管疾患を治療する薬では、消費者直接広告費用の割合は著しく低かった。

本研究の主著者であるマイケル・ディステファノは、製薬会社が販促費を医師よりも消費者直接広告に向けているのは「患者が医師に処方される可能性の低い薬を求めるよう促す戦略の一環」だと指摘した。

製薬会社が処方薬を消費者に直接売り込むことを許している国は、米国とニュージーランドの2カ国のみ。世界保健機関(WHO)は、処方薬の消費者直接広告な患者のみならず医療従事者にも間接的な影響を与え、「エビデンスに基づく医療の判断を困難にする」と指摘しており、こうした広告はほとんどの国で禁じられている。

米国医師会はこの慣行に反対しており、他の保健団体と共に禁止を訴えている。製薬会社は、患者は広告の恩恵を受けており、自分にどんな選択肢があるかを知る権利があると主張している。

反対派は、製薬会社の消費者直接広告が可能になることで、企業側には自社の薬の副作用の説明をせず効果を誇大宣伝する動機が生まれてしまうと指摘している。規制当局はそれを防ぐため、広告でリスクの説明に時間を割くことを義務付けており、その結果、米国での処方薬のCMでは副作用のリストが早口でまくしたてられる

研究チームによると、2016年に製薬会社が消費者直接広告に費やした金額は60億ドル(約7800億円)で、1996年の13億ドル(約1700億円)から著しく増えている。

共著者のジェラード・アンダーソン教授(健康政策)は「もう一つの問題は、現在米国が処方薬の評価を行っていないことです」と語る。「テレビで見る薬のCMで、その薬が同じ病気に効く別の薬と比べてどれほど有効なのかを伝えることが義務付けられたらどうなるか想像してください。薬に対する関心度合は変わるでしょう」

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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