「東京パラリンピックが終わってから、ずっと引退を考えていました。
そして昨年、最後に残されたウィンブルドンのタイトル。あの優勝が決まった直後にチームのみんなと抱き合った。その時、いちばん最初に出た言葉が『これで引退だな』。実はあの芝生のコートの上で最初に出た言葉がそれだったんです。
その後、全米オープンは年間グランドスラムもかかっていたので、同じモチベーションで優勝できましたが、全米が終わった後は、『もう十分やりきったな』という思いが、ふとした瞬間に口癖のように出てくるようになった。それで引退を決意しました。
応援してくださっている皆さまには、『最高のテニス人生を送れた』と言い切って締めの挨拶とさせていただきます」
代表質問で「競技人生を振り返って一番の思い出は?」と問われると、国枝はあまり迷わず、こう答えた。
「東京パラリンピックでの金メダルですね。2016年のリオで挫折を味わい、2021年の東京で優勝。
東京が決まった2013年からの8年越しの夢がかなった瞬間は、いまでも鮮明に、写真を見ると震えるような感情になります。それくらい思いの詰まった金メダルで、一集大成になったと思います」
柳井氏は「国枝さんとの長い付き合いの中で、印象に残っているエピソードはありますか?」と問われ、いや〜、いつも印象に残っていて...... と思案した後、言った。
「どれが一番か分からないぐらい、僕はいつも感銘を受けています。彼みたいに完全な人、完全に見える人は珍しいですよ。エピソード? やっぱりいちばん最初会った時に、『この人だったら大丈夫なんじゃないか』と思ったことですかね。
僕はその人の能力とか、過去やったことより、その人に会って、どういうことを感じたかで決めるタイプなので」
さらに「ユニクロの社員に国枝さんから学んでほしいことは?」と訊かれ、柳井氏は答えた。
「挑戦でしょう。やってないことをやる。それとやっぱり、車いすテニスという新しいスポーツのジャンルを確立した。新しい産業を作ったのと一緒です。ファッション業界よりよほど難しい。いろんな人の理解でそれができた、という事実。社員はもっと挑戦して実行して達成する、それを学んでもらいたいと思っています」