フィンランドで注目の「食べる森」エコシステム 女性起業家が守り人に

北カレリアに広がる森を舞台に、多様なフォレストビジネスが展開されている

化学肥料の高騰、気候変動、種の支配、今までの大規模生産型食糧システムがまさに臨界点を迎え、食糧不足への危機感が世界的に強まっている。一方で新型コロナは今まで以上に人間の免疫を高める食品や食習慣の重要性を浮き彫りにした。

食べ物の栄養価は、現代の大量生産型農業による土壌の劣化などを理由に減少しており、一方で健康の保持増進に役立つとされるスーパーフードのほとんどは希少で高価だ。輸入のキヌアやチアシードはもちろん、国産の新鮮なベリーやきのこ、芳醇な蜂蜜は、この食糧高騰の最中ますます手に入れるのが難しくなっている。

しかし、想像してみてほしい。毎日の食卓を満たすのに、近所のスーパーに行くのではなく、近くの森に空のバスケットを持って出かけることを。玄関を開けたら森と湖が果てしなく広がっていて、足元や目の前にスーパーフードがあちこちに自生している。そんな夢のように幸福な森がフィンランドの最東端・北カレリアにはあるのだ。

先駆的なフォレストビジネス・エコシステム


森に自生する食糧で十分な自給自足など成り立たないと思う方もいるかもしれない。しかし、北カレリアの森がずば抜けて食糧や資源供給力に長けているのは、決して「手付かず」の自然が残ったという偶然の産物ではない。

むしろ世界レベルの森林資源研究と最先端のテクノロジーに焦点を当てた、先駆的なフォレストビジネス・エコシステムを実現し、地元の食品生産企業や産学連携で人間が積極的に森に関わっているからだ。

最新の森林科学の現場において、森林は二酸化炭素の削減や木材の調達の場という価値に踏みとどまらない。

アグリカルチャー(農業)とフォレストリー(林業)を組み合わせた造語アグロフォレストリーは1970年頃から食糧自給力のある「食べれる森」をつくる農法として東南アジア諸国や南アメリカ、アフリカなどの熱帯地域を中心に広がってきた。

昨今そうした森林の食糧自給力は欧州や北欧諸国でも無視できないものになっている。森が供給するのは食品だけでなく、 医薬品、美容産業においても期待されているピュアで質の高い原材料だ。

もちろんこれらを環境にできるだけ負荷をかけず生産を最大化し、そのために複雑な生態系を守るのだから容易ではない。北カレリアの森林原産の白樺樹液、トウヒの新芽、様々な樹脂、キシリトール、ハチミツなどの森林由来の原材料は、その質の高さや精製方法のサステイナビリティ、保存技術のイノベーションという点においても注目を集めている。

北カレリア地方は元々フィンランドにおいて有機栽培が最も盛んな地域だ。南のロシア国境に接するフィンランドの最大級のサイマー湖を囲む南北のカレリアは、農業や森林に適した独自の気候・環境政策を進めている。この地域の農業生産は、広大な水域と森林エリアが分散しているため大規模な耕作に適した地形ではない。

それが結果的に家族経営の小規模農場と森林資源の両立によるまさに先進的なアグロフォレストリー型の食糧生産となった。

各農場には、有機物の循環活用、水資源保護、動物福祉に関する独自の環境計画があり、農地や森林の炭素隔離を最大化し、畜産からの排出量を削減するため、新たに気候変動対策が計画に加えられて非常に戦略的に森林と地域の食糧供給力を発展させている。
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