アジア

2023.02.08

北朝鮮に女性指導者が誕生するか、金正恩の跡目

テレビ画面に映し出された金与正(Photo by KIM Jae-Hwan/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

最近、北朝鮮の女性を巡る動静が注目を集めている。金正恩総書記の妹、金与正氏、妻の李雪主氏、そして娘の金ジュエ氏だ。北朝鮮で過去、虐げられてきた女性の登用には、金正恩氏の意向が強く働いているようだ。2011年末の権力継承以来、常に健康不安に悩まされ、信頼できる部下が限られた環境に置かれてきたからだ。果たして、彼女たちが権力の座に就くことはあるのだろうか。かつて、金日成主席のフランス語通訳だった韓国の高英煥・元国家安保戦略研究院副院長は今後、女性同士の血で血を洗う争いも起きるかも知れないと、分析する。高氏の分析は以下の通りだ。


いつの頃からか、平壌高位層の間では白頭血統である金与正朝鮮労働党副部長、金正恩の妻、李雪主、金正恩の影法師である玄松月党副部長ら「3人の女性が国を統治している」とういうわさが出始めた。これ以外にも最近では、金正恩の「尊貴なお子様」と称される女児1人が追加された。金正恩の2番目の子ども、金ジュエだ。

事実、北朝鮮の党・政・軍の序列2位だった李英浩総参謀長や、あるときは「飛ぶ鳥も落とす」権力を与えられたとされた張成沢元国防副委員長のように、彼女たちも政治の舞台からあっという間に消え去るのではないかという考えも浮かぶ。しかし、前述した3人の女性は永く、金正恩の側近として残る公算が高い。

だからか、金正恩の健康が急激に悪化したり、死亡したりした場合に、彼女たちのなかから、北朝鮮を率いる女王が出現するのではないかという話が出るのも無理はないというわけだ。

マイク・ポンペオ元米国務長官が自身の回顧録で、金正恩は身長5フィート5インチ(167.5センチ)だとしている。韓国国家情報院は体重が130~140キロ程度だと分析している。ひどい肥満体だ。

北朝鮮のテレビでも金正恩が足を引きずる姿や、腕に包帯をまいた姿が流れ、後頭部に絆創膏を貼った写真も公開されている。

さらに2020年4月15日、金正恩が錦繡山太陽宮殿に安置された祖父、金日成と父、金正日の遺体に参拝しなかった。金正恩は11年末の権力継承から20年まで、ただの一度も金日成生誕記念日の4月15日に参拝しなかったことはなかった。毎年4月15日に実施してきた北朝鮮軍の将軍たちを昇進させる最高司令官命令文も下達しなかった。

そればかりではない。北朝鮮は2021年1月の第8回党大会で「党第1書記」職を新設した。党規約条項を改定し、「党第1書記は党総書記を代理する」とした。北朝鮮体制の性質上、金正恩の許可がない限り、誰も「金正恩を代理する」という言葉を口にすることはできない。

このように、金正恩の未来が明るくないこの時期に、北朝鮮の権力グループで権勢を誇る金与正副部長が注目されることは偶然のことではない。

もちろん、「雌鳥が泣き叫べば、家が滅びる」ということわざを引用して、金日成の後妻、金聖愛を何度も攻撃した金正日の指示が、党・政・軍のエリートたちの意識のなかに潜在しているため、事は簡単ではない。
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文=高英煥 訳=牧野愛博

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