40年以上にわたって中国経済の支柱になってきたのは、安価な労働力だ。それを目当てに、欧州や北米の製造業者が中国に殺到。はじめはシンプルで安い製品を、やがては、より精巧で高価な製品を製造するようになった。こうした投資により、中国経済は驚異的な急成長を遂げた。
しかし、しばらく前から、中国とアジア全般における賃金は西側諸国よりも速いペースで上昇しており、いまでは低コストという強みはほぼ消えつつある。
かつて、西洋と中国の間には非常に大きな賃金格差が存在した。中国の国家統計局によると、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した2001年当時、中国人の平均賃金は年間およそ9333元、米ドルに換算して約1127ドル(約15万円)だった。一方、米社会保障局(SSA)によると、同時期における米国の平均賃金は年間3万846ドル(約410万円)で、中国の30倍近くに上っていた。
そのころ全米自動車労働組合(UAW)が実施したある調査によると、中国の自動車業界で働く労働者1人の平均時給は米ドル換算で59セント(約78円)で、米国の同業界で働く労働者が得る時給の3%にも満たなかった。遠く離れた中国での製造となれば、複雑な条件とコストが伴うし、米国の労働者のほうが質の高いトレーニングを受け、生産性も高かったが、人件費の差は抗しがたいものだった。こうしてメーカー側は、中国での製造に重心を移していった。
ところが、やがて中国では、西側諸国のメーカー増加と経済成長に伴い、賃金が上昇し始めた。そのスピードは、欧米をはるかにしのぐものだった。
2011年になると、中国の平均賃金は年間4万1799元、米ドル換算で6120ドル(約81万円)まで増えた。同年の米国の平均賃金は年間およそ4万ドル(約531万円)で、中国を大きく上回ってはいたものの、その差は6.5倍にまで縮小した。
その後、新型コロナウイルスの流行により、中国から西側諸国への物流にさまざまな問題が生じたころまでには、賃金の差は大きいとは言えないものになっていた。中国の国家統計局が公表した21年通年データによると、中国の平均賃金は年間10万5000元、米ドル換算で1万6153ドル(約214万円)。一方、米国の平均賃金は年間およそ5万8120ドル(約771万円)と、中国の3.5倍だ。格差は依然として大きいが、以前ほどではない。