よく経営で言われるのは、「人を口説くのにはメチャクチャ時間がかかる」ということ。誰かが会社を辞めてポストが空くと、経営者は3カ月~半年以内に新しい人材を採用しようとします。しかしそんな短期間では、優秀な人と出会えるとは限りません。「この人と絶対一緒に働きたい」と思う優秀な人材を見つけたときには、何年かかってもずっと口説き続けたほうがいい。
曹操は、そういうマネジメントをずっとやり続けた経営者でした。その人と一緒に働くためだったら、もう何でもやる。やり続ける。そういう「人に対する興味」を、ずっと描き続けているんですよね。
あの時代に、ひとりの人間──『三国志』でいうと3人ですけど、「中華、変えられるじゃん。変えたほうがいいよね」と思えるというだけでヤバイ。それに対して自分はどうあるべきかと考え、アクションを起こし、実際にかたちにしていく。このプロセスが、何より参考になります。
当時の漢帝国に生まれて「いまの儒教思想ヤバイから、俺はもっとこういう世の中にしたほうがいいと思う」と公言する。それって、上司を疑うということですからね。
経営を担っていて常に考えるのは、「自分のビジョン」をどうもつか。企業規模や時価総額、売上でいえば、上を見るときりがない。でも、それだけではありません。どういう世の中であったらいいか? それを日々、自問しています。
でも、そのビジョンが言い訳になってないかと疑う瞬間がある。途中で歩みを止めてしまう人がいますが、どこかで言い訳しちゃってるなと思うんです。
僕は、例えば早期リタイヤしてプレッシャーから解放されて悠々自適に暮らしたいとは思っていません。たとえボロ雑巾のように疲れ果てようとも、決して歩みを止めず、『蒼天航路』の登場人物たちのように死ぬ瞬間まで全力で仕事を続けたいのです。
栗俣:お話を聞いていると、中川さんは迷ったときに『蒼天航路』に立ち戻り、『蒼天航路』から答えを見つけてきている感じがしますね。
中川:それはあります。曹操が2年間、何もせずに喪に服す時期があるのですが、それを彼は「早く待つ」と言うんですよ。「早く待つ」って何やねん(笑)。でも、人生ドタバタしてもしかたがない時期はある。僕にもそういう時期があって、あのときは「早く待とう」と。
そういうことも含めて、僕にとって『蒼天航路』は、目指すべき「蒼天」を描いたものであり、人生の「操典」でもあります。
【聞き手・企画協力】栗俣力也◎TSUTAYA IPプロデューサー。「TSUTAYA文庫」企画など販売企画からの売り伸ばしを得意とし、業界で「仕掛け番長」の異名をもつ。漫画レビュー連載や漫画原案なども手がける。