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2023.02.15 17:00

newn中川綾太郎の偏愛漫画『蒼天航路』|社長の偏愛漫画 #8

中川:もう何周も読んでいるのですが、読むたびに面白いと思う箇所が変わってくるんですよ。

大学生時代に初めて読んだときは、天才的なカリスマリーダーである曹操の魅力に圧倒されました。2回目に読み直してみると、なぜ曹操の軍が強いのか、作品のディテールに視線が向かったものです。そして次第に、モブキャラに目が向いていく。

作品の初期で、城の外壁を塗っていた職人に曹操が声をかけて、重要な役職に任命しました。努力して実力さえ磨けば、誰でも上の役職まで上がっていける。そんな世の中になるべきだという曹操の考えに、職人は胸打たれます。このモブキャラが、ずいぶんあとの巻で「あのとき任命されてからずっとがんばってきました」と登場したときは、グッときましたね。

栗俣:すべて完結してから、何をしていたかがわかる。ビジネスが成功したあとに、そこまでのプロセスが面白く感じられるのと同じ感じがしますね。

中川:それはすごくあると思いますね。経営者として組織を引っ張っていくとき、『蒼天航路』はとても役に立ちます。

曹操の特徴は、極めて難しいマイクロマネジメントを手がけるところです。部下がただ単に曹操の指示を聞いて動くだけでは、戦場において軍は曹操が思い描くようにワークしません。

堅固な戦略を構想し、遠慮なくズバズバ進言してくれる郭嘉、自分の人間性そのものを信じ、生涯をかけてともに戦い続けてくれた夏侯惇や夏侯淵のような名将──曹操は自分をサポートしてくれる人材を貪欲に探し求め、彼らを各所に配置して組織を強化しました。

僕は起業家で、経営者としての目線で物事を見なくてはいけません。しかしその一方で、自分自身もずっと作り手でいたいという思いもある。そこに葛藤があるわけです。

『蒼天航路』のキャラクターのなかでも、郭嘉には、そういう自分を投影できるところがあります。例えば夏侯淵が死んだあと、「敗北にこそ才が必要だ。敗戦の中で何をどれだけ見いだすことができるのか!?」という話をします。それはすごく好きなところです。

栗俣:郭嘉は軍師として戦を担ってきながら、結局、自身が否定してきた政(まつりごと)に行き着く。しかし、今際の際になって「軍略があふれ出て止まらない」と言いながら死にます。

中川:あのシーン、メチャクチャ好きです。僕は一生、プロダクトを作って事業をやっていたいなと思うので、そう思いながら死にたいという願望があります。『蒼天航路』でいちばん好きなキャラクターは曹操ですが、自分自身に近いのは郭嘉かもしれません。

栗俣:劉備はどうですか?

中川:曹操が完璧超人のカリスマのリーダーとして描かれているのとは対照的に、劉備は「自分は有能ではない。ただし器はでかい」と自覚し、戦略を描くこともなければ、細かいことまでいちいち指示することもありません。結果、劉備の人徳に惹きつけられ集まった優秀な人材たちは、劉備の指示を仰がずとも自分で戦略を考えて自分の判断で行動します。こういう組織は、劉備という枠に囚われずワークしていきますよね。

よく「トップは何もしないほうがいい、ビジョンだけ語っていたほうがいい」と言われます。組織における余白が必要だ、と。曹操軍がソリッドな戦略を描き続け、それを実行できる組織体を作ろうとしていたのに対し、劉備は「いやいや俺、何もできないから」と言って、敵軍も含めて、曹操に負けた人たちを吸収し続けていく。

組織のつくり方にはさまざまなかたちがありうるということが、『蒼天航路』から読み取れるのです。

栗俣:『蒼天航路』で語らなければいけないポイントとして、最後のシーンがあります。もともと劉備軍の一角であった関羽が、超人のように描かれます。最終的に関羽の首が曹操に届けられて、曹操は彼をうらやましがっているところで物語が終わる。 

人に好かれて天下を取った劉備ではなく、その劉備に対して絶対的な愛を貫いた関羽という存在を認めて、その関羽を人として愛するのは曹操という……。曹操のこれまでの流れは「人」のためだった、という終わり方、すごいですよね。
©王欣太・李學仁/講談社

©王欣太・李學仁/講談社

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インタビュー=栗俣力也 文=荒井香織

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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