人気数学者が、現代社会を動かす数式とその利用法についてユーモラスな切り口で語る『世界を支配する人々だけが知っている10の方程式―成功と権力を手にするための数学講座』から、読みどころをピックアップする。
冷静に判断を下す―ベイズの定理
全員が数学や統計学のバックグラウンドを持つ金融トレーダーのチームを率いている私の友人マークは、最高のトレーダーが持つひとつの共通点に気づいた。新しい情報を処理し、それに対応する能力だ。何か出来事が起きたとき、新たな現実に合わせてすぐさま自分の理解を見直すことができるのだ。トレーダーは、「この会社は翌四半期に必ず利益を上げる」とか、「あの新興企業はまちがいなく失敗する」とかいうように、物事を白黒で考えたりはしない。むしろ、「この会社が利益を上げる確率は34%」とか、「あの新興企業が失敗するリスクは90%」とかいうように、物事を確率で考える。そして、CEOがやめさせられたとか、その新興企業のベータ版がなかなか好評である、といった新たな情報が入るにつれて、34%から21%、90%から80%というように確率を絶えず見直していくのだ。
ギャンブル業界の知人のジェームズからも、似たような話を聞いたことがある。彼らは前章で紹介した賭けの数式の一種を用いているのだが、大金がかかっている関係上、最新のモデルが次のサッカーの試合に対して有効なのかどうかを、すばやく見直していく必要がある。たとえば、試合開始の1時間前に先発メンバーが変更になり、モデルの根底にある仮定が成り立たなくなったら?
「本物のトレーダーかどうかがわかるのはそういう時なんだ」とジェームズは言う。「本物のトレーダーは過剰反応しない。先発メンバーがひとり変わったくらいなら、賭けはまだ有効だ。2〜4人変われば、そこで初めて別の可能性を加味しはじめる。5人以上が変われば、賭けはお流れだ」