両者とも従来より代表執行役。両者はソネットでもタッグを組み強い信頼関係が結ばれていたこともあり、吉田ソニーの時代を迎えると、十時氏が財務責任者としての経営指揮をサポートしてきた。つまり、吉田氏と十時氏はこの5年間、共にソニーを支えてきた盟友であることに変わりはない。
ではなぜここで社長を交代するのか。
それは経営環境が大きく変化しようとする中、ソニーグループの企業価値を最大化するために、明確な”成長”軌道に乗せるための攻めの経営を行うためだ。
”財務と業務執行を兼務”の真意
ソニーグループの社長は交代は5年ぶりのことだが、吉田氏が一線を退くためのステップというわけではないようだ。吉田氏は今後もソニーグループ全体の経営を率いつつ、しかし財務責任者である十時氏が業務執行の責任者も兼務する理由は、吉田氏が記者会見冒頭で話した言葉に尽きる。吉田氏はソニーのパーパス(社会的役割)は何かを再考し、”世の中を感動で満たす”というパーパスに行き着いた。そのために積極的な事業ポートフォリオの見直しをかけていったが、大胆にソニーグループの形を変えていくためには、CFOでの十時氏のサポートが不可欠だった。
「EMIやクランチロール買収など、コンテンツの知財買収戦略について事業を深く理解した上で自ら動き、イメージセンサー事業では需要動向、競争環境の変化など事業部側と情報交換を密にしながら投資計画を詰めてくれた。2兆円の戦略投資枠を実現してくれたことも大きい。この予算があるからこそ自社株にも戦略投資もを実施し、5000億円の自己株式取得を財務面からサポートしてくれた(吉田氏)」
吉田氏はソニー社長に就任すると事業構造を一変させ、社名をソニーグループと変更した上で、事業領域が異なる事業子会社を本社から等距離に配置し、各事業会社に業務執行を任せながらグループの経営指揮を執ってきた。
かつてのソニーは”エレキの会社”だったが、現在のソニーグループはゲーム、イメージセンサー、映画、音楽、金融、エンターテインメントサービスという、6つの事業領域が収益の柱になっている。
それぞれのジャンルにおいて経営環境は異なるが、今後はさらにパーパスを共有しつつも、事業領域は多様化していくだろう。そうなった時に、具体的な業務執行に携わる立場から経営リソースをどう配分すべきかを考えるべきと吉田氏は考えたという。
すなわち、事業展開が多様化する中でキャピタルアロケーションを最適化するためには、財務責任者自身が業務執行にも携わることが最適だと考えたわけだ。