家畜への抗生物質使用が増加、人のスーパー耐性菌まん延の原因に

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科学誌『PLOS Global Public Health』に2月1日に掲載された研究によると、動物への抗生物質やその他の抗菌薬の世界の使用量は2020年代に増加し続ける。この動きは命を救う薬の効力をなくし、治療が困難なスーパー耐性菌のまん延を加速させる可能性がある。

真菌、バクテリア、ウイルス、寄生虫といった微生物を殺したり防いだりするために使用される抗菌薬は、2030年までに約10万7500トンが豚、鶏、牛、羊などの家畜に使用されると研究者は予想している。

この数字は現在の傾向のデータを用いて推定されており、2020年から8%増となる。

世界の抗菌薬の大部分(推定70%超)が農業で使用されており、耐性菌のまん延の抑制を目指して抗菌薬をより責任を持って使用するという世界的な取り組みがあるにもかかわらず、急増が予想されている。

薬剤耐性はバクテリア、真菌、ウイルスなどの生物が治療に使用された薬剤を打ち負かすことで生じ、これにより感染症の治療が非常に困難になったり、あるいは不可能になったりする可能性さえある。

農業ではテトラサイクリン、アンフェニコール、ペニシリンなど多くの医学的に重要なものを含む薬剤を家畜の健康維持や病気予防のために健康な動物に投与することが多く、この戦略が耐性を促進している。

研究者によると中国、ブラジル、インド、米国、オーストラリアは2020年と同様、2030年に最も多くの抗菌薬を使用する上位5カ国となると予想されている。2020年初頭にはこの5カ国で世界の使用量の60%近くを占めていたという。

抗菌薬は医療において最も重要なツールの1つだ。多くの感染症の治療に不可欠であり、切開手術を可能にし、がんなどの疾患の免疫系を低下させる治療のリスクを軽減する。しかし耐性によって抗菌薬の効果が吹き飛び、現在は簡単に治る病状も、あるいは紙切れによる切り傷すら死に至るような時代に逆戻りする恐れがある。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症、淋病、サルモネラ症、結核、肺炎などますます多くの感染症が、使用する抗生物質の効果が弱まっているため治療が困難になってきている。

新しい抗菌薬の開発状況は心許なく、微生物を攻撃する新しいメカニズムを用いた新種の抗菌薬では特にそうだ。製薬会社が多額の費用がかかるこの分野の研究に資金を投じるインセンティブがあまりなく、新薬が市場に出回るやすぐさま耐性が現れることが多いためだ。米疾病予防管理センター(CDC)や世界保健機関(WHO)などの保健専門家や機関は、この問題を人類が直面している公衆衛生に対する最も差し迫った脅威の1つだと述べている。
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翻訳=溝口慈子

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