エピゲノムとは、DNAの遺伝子の使い分けを調整するスイッチ的な存在です。外部からの刺激に対処するために、エピゲノムはつねに情報を書き換えながら体を最適な状態を保とうとしますが、エピゲノムの対応に異常が起きると、臓器機能が低下したり、がんが発生したりします。
このエピゲノムが老化の加速や抑制を行っていると、先日、慶応大学などの研究グループが発表しましたが、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構、慶應義塾大学医学部、KDDI総合研究所による研究グループは、今回、日本人のセンチナリアンとスーパーセンチナリアンのエピゲノムの年齢が、若い人たちと同等に保たれていることを確認しました。
エピゲノムによる遺伝子の切り替えは、メチル化という現象でわかります。DNAのメチル化が進むと(高メチル化)遺伝子の活性が制御され、メチル化が低下すると(低メチル化)活性化します。たとえば、がん遺伝子が低メチル化し、がん抑制遺伝子が高メチル化すると、がんが発生します。研究グループは、このDNAのメチル化を調べることで、エピゲノムの年齢を推定できる新しい方法を編み出しました。
これを使い、101歳から115歳までの94人と、20歳から79歳までの健常な421人の血液からDNAを抽出して解析したところ、高メチル化または低メチル化が進むDNAごとの傾向は、センチナリアンでも若い人たちとほぼ同じでした。ただ、調査に参加したセンチナリアンのうち1人を除いたすべての人のエピゲノム年齢が、実年齢(暦年齢)よりも若かったのです。とくに、がんと認知機能を関わる領域のエピゲノムが若く、がんにもかからず認知機能の低下も見られない理由がそこにありました。
ところが、センチナリアンに共通する特徴的なメチル化状態を示すDNAのなかには、老化の方向にエピゲノムの変化が加速している部分もありますた。それは、抗炎症作用のあるTGF-βのシグナル伝達に関連する領域です。加齢性疾患には慢性的な炎症が関与していると言われています。エピゲノムは若いほどいい、ということではなかったのです。
研究グループは、不老不死を追究しているわけではありません。むしろ、老化を前提に、心身ともに良好な状態で天寿をまっとうする「サクセスフル・エイジング」を大切に考えています。「若い状態を保つことが健康状態の維持に重要であると広く考えられていますが、加齢を止めることはできません。本研究では若く保たれるゲノム領域に加えて、加齢に伴って特定のエピゲノム領域がより老化が進んだ状態になることの重要性を示しました」と話しています。