奈良は、350年以上の歴史を誇る茶陶の名門・大樋焼(金沢市)、十一代大樋長左衛門の長男でもありながら、3DCADなど最新テクノロジーを取り入れて、建築的な工芸の世界を切り開いている。作家の視点から、アート化する新しい工芸「KOGEI」が向かう先について聞いた。
工芸とビジネスの意外な接点
──Forbes JAPAN Webで、2022年末から現代アート化する新しい「KOGEI」について取り上げています。実は僕の作品のコレクターには、スタートアップ界隈の方がいらっしゃいます。代表的な方は、ラクスルの松本さん(松本恭攝CEO)。印刷や広告、物流といった伝統産業の仕組みにインターネットによって変革を起こした方ですが、人との距離感や手触り感、サービスへの愛着などを生み出す時に「工芸的な思考」を応用するという話で盛り上がったことがあります。
まだあまりフォーカスされていませんが、工芸はビジネスとの接点は大いにあると感じています。
──奈良さんは、建築と陶芸の融合をコンセプトに作品づくりをされていますが、ダイナミックに変化する工芸にどのように向き合っていますか。
僕の場合、子どもの頃から工芸の極地のような場で育ってきました。本来の工芸とは、象嵌や絵付などに代表されるように、小さなものの集合体であると思います。特に金沢では「小ささ」がもたらす豊かさを極めてきたのではないかと思っています。
それがここ10年で、工芸の作品のスケールが飛躍して形が多様化し、現代アートに近づいていく様相が見られたのではないかと僕なりに感じています。(関連記事はこちら)
僕自身は建築的な視点から、モノが積極的に空間に溶け込んでいく「空間化する工芸」に関心があり、作品づくりをしています。かつて工芸はモノとしての存在感こそが醍醐味であり、嗜好されていたように思いますが、僕が見つめる未来の工芸は、周りの環境を取り込み、空気の気質を変化させる建築の存在感と似ているような気がしています。
「Bone Flower」が誕生した理由
──代表作である、白い骨が花を咲かせたような陶芸作品「Bone Flower」が生まれた背景を教えてください。
「Bone Flower」は、ボリュームの塊ではなく、板状の線の集合体なので形の輪郭は非常に曖昧です。その線が花を形作っているようにも見えます。
器は機能上、内と外を断絶せざるを得ませんが、その境界をほぐして、その場の環境を積極的に取り込んでいくことを表しています。
よく晴れた日と真っ暗闇では、同じ作品には見えません。荘重な表現やスケールアウトした存在感で圧倒するのではなく、さまざまな環境によって柔軟に変化しつつも、工芸特有の普遍性があるといいなと思います。
一方で、社会的な境界についても考えています。工芸が時代とともに権威を象徴する世界となり、作品と人との距離が乖離してしまったように感じていました。作品自体が、人や環境、自然と積極的に対話するような感覚で形を作っています。