ビジネス

2023.02.02

粘り腰の戦略、したたかな戦略

田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

良く知られているように、シリコンバレーでは、新事業に挑戦して失敗した起業家を、決して否定的に評価しない。それは、その失敗から大切なものを掴んだことを評価する文化があるからである。これに対して、「減点主義」の日本では、こうした「目に見えない収穫」を評価する文化が、極めて弱い。

昔から、「敗北した軍隊、良く学ぶ」という格言があるが、この「敗北から徹底的に学ぶ」という姿勢もまた、したたかな戦略思考に他ならない。

また、この「したたかな戦略思考」という意味では、日本企業は「コスト意識」が極めて弱い。ただし、この「コスト意識」とは「電気をこまめに切る」といった節約の意味ではない。「新事業開発に投入したコスト」を決して無駄にせず、そこから最大限の「収穫」を掴み取るという意識のことである。

かつて、チャンスに圧倒的に強いと言われたプロ野球選手、長嶋茂雄が、その勝負への執念を、「体勢を崩しながらも、ヒットに持っていく」と評されたが、実は、優れた経営者やリーダーもまた、そうした粘り腰としたたかさを持っている。彼らは、「戦略的なミスを、戦術的な粘り腰で、成功に持ち込む」といったことさえ、実際にやってのける。

では、どうすれば、我々は、この「粘り腰」と「したたかさ」を身につけることができるのか。

一つの覚悟を定めることである。

いかなる戦略にも、部下や社員のかけがえのない人生の時間が注がれている、という覚悟。

その部下や社員が、そのプロジェクトに、その事業に、その戦略に賭けた思いを、そして、捧げた人生の時間を、決して無駄にしないとの覚悟。

その覚悟こそが、経営者やリーダーに、「粘り腰」と「したたかさ」を身につけさせる。

そして、そうした経営者やリーダーにこそ、部下や社員は、共に歩みたいと思うのであろう。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。シンクタンク・ソフィアバンク代表。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global AgendaCouncil元メンバー。全国7700名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『能力を磨く』など100冊余。

文=田坂広志

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