昔から、「敗北した軍隊、良く学ぶ」という格言があるが、この「敗北から徹底的に学ぶ」という姿勢もまた、したたかな戦略思考に他ならない。
また、この「したたかな戦略思考」という意味では、日本企業は「コスト意識」が極めて弱い。ただし、この「コスト意識」とは「電気をこまめに切る」といった節約の意味ではない。「新事業開発に投入したコスト」を決して無駄にせず、そこから最大限の「収穫」を掴み取るという意識のことである。
かつて、チャンスに圧倒的に強いと言われたプロ野球選手、長嶋茂雄が、その勝負への執念を、「体勢を崩しながらも、ヒットに持っていく」と評されたが、実は、優れた経営者やリーダーもまた、そうした粘り腰としたたかさを持っている。彼らは、「戦略的なミスを、戦術的な粘り腰で、成功に持ち込む」といったことさえ、実際にやってのける。
では、どうすれば、我々は、この「粘り腰」と「したたかさ」を身につけることができるのか。
一つの覚悟を定めることである。
いかなる戦略にも、部下や社員のかけがえのない人生の時間が注がれている、という覚悟。
その部下や社員が、そのプロジェクトに、その事業に、その戦略に賭けた思いを、そして、捧げた人生の時間を、決して無駄にしないとの覚悟。
その覚悟こそが、経営者やリーダーに、「粘り腰」と「したたかさ」を身につけさせる。
そして、そうした経営者やリーダーにこそ、部下や社員は、共に歩みたいと思うのであろう。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。シンクタンク・ソフィアバンク代表。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global AgendaCouncil元メンバー。全国7700名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『能力を磨く』など100冊余。