モチベーションに関する心理学の理論によると、人には「促進焦点タイプ」と「予防焦点タイプ」の2タイプが存在するが、自分がどちらに属するかによって、ライバルとのつき合い方を変える必要があるという──。
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スポーツの世界では
スポーツの世界では、ライバルの存在がパフォーマンスの向上につながると言われています。このことを証明する研究データは、欧米には多数ありますが、日本では数少ない。そこで、私の研究チームが、日本の大学の運動部所属の学生を対象にデータ収集して、分析してみました。その結果、ライバルがいる人ほど、「自分の理想の姿が浮かんでくる」「自分がこうなりたいというイメージが湧いてくる」「自分がほしいものや手に入れたいものが浮かんでくる」などの理想自己が強くなり、また、「競技への気持ちが高ぶってくる」「もっと上手に競技ができるという気持ちになる」「意気揚々とした気持ちが湧きあがってくる」というモチベーションも強くなり、このモチベーションがパフォーマンスの効力感を高めていました。
このような研究結果や、スポーツ選手の手記やコメントを読むと、ライバルの存在は、ビジネスの現場においても重要だと思えます。しかし話は、それほど単純ではありません。
ビジネスの現場では
スポーツ競技は、短期間でライバルに勝ったのか負けたのか結果がすぐに出ます。他方、ビジネスの場合は、ライバルに勝ったのか負けたのか短期間では結果が分からなかったり、職種によっては、数年後に勝敗がはっきりしたり、あるいは勝ち負けが最後まで分からないこともあるでしょう。スポーツ競技では、その種目での勝敗を決める要因の数は限られています。たとえば陸上競技の短距離走ならば、スタート時の瞬発力や足腰の筋肉などの要因が重要だと限定できます。他方、ビジネスの場合、各個人のパフォーマンスを決める要因は多数あり、しかも複雑に絡み合っています。同じ職種であっても職場環境や地域などの違いも重要な要因となり得ます。ビジネス現場のそれぞれの人が置かれている条件が大きく異なるため、そもそもライバルを見出すことさえ難しいビジネス現場もあるでしょう。
ライバルは、本来、主観的に決めることもできますから、「私のライバルは〇〇さんだ」と自分で決めたライバルに、「自分は勝った」と思い込むことはできます。ただし、主観だけですと、スポーツ場面で証明されている「ライバルの存在がパフォーマンスの向上につながる」という効果は生じにくくなります。スポーツ場面で証明された話は、ビジネスの現場には、単純には当てはめられないのです。