就職試験では面接官の質問に、明るく意欲的に答えなければならず、会社に入れば、周りとテキパキとコミュニケーションを取りながら成果を上げることが期待される。それだけではない。世の中は、カリスマ経営者や注目を集めるリーダーの話題であふれているのだ。
そんな環境のなかで内向的な人々は苦労してきた。ベストセラになった『「静かな人」の戦略書』の著者、ジル・チャンもそのひとりだ。発売中の『Forbes JAPAN』3月号に掲載する独占インタビューの一部をお届けしよう。
「子どものころから物静かでした。しかし何といっても苦労したのは職場です。職場は内向的な人間には難関だらけなんです」
最近でこそ、内気な人、過敏な人に関する話題や本が少しずつ見られるようになったが、これまで内向的な人々は社会では不適応とみなされることが多かった。台湾に育ったチャンも、ともかく自分を外向的に見せかけようと腐心してきたという。
しかし、そんな方法では自分がもたないと知って取り組み始めたのが、内向的な自分が取れる戦略を考えることだった。『「静かな人」の戦略書』は、そんなチャンの経験が語られ、そして内向的な人々が自分でも試してみることができる丁寧な指南が並んでいる。それも、日常の業務、ミーティングの場、パーティでどうするか、部下や上司との関係など、さまざまなシチュエーションに合わせて解説されているのが、同書の大きな特徴だろう。
「いろいろなシナリオに合わせた実践的な指示書のようなものが、内向的な人には必要だと思ったのです」とチャンは言う。アメリカ企業や国際的な組織で働いた経歴をもつアジア人であるという点も、われわれ日本人にとって参考になる内容を含むものと言えるだろう。
自分のことを表す言葉に出合う
実は、チャンは30代になるまで「内向的」という言葉すら知らなかったという。それなのにチャンが大学時代にインターンとして携わり、その後就職したのは、何とアメリカのスポーツ業界でのマーケティングの仕事だった。小さいころから野球の大ファンで、プロのスポーツチームにかかわるのが夢だったのだ。マーケティングもいろいろなアイデアが試せる面白い仕事に見えた。ただ、当然のことながら、そこは活気あふれるにぎやかな世界で、堂々たる男女であふれていた。「みんな超外向的でした。だから、鎧をまとって外向的に見えるよう振る舞っていました」とチャンは語る。
そんなチャンが、ありのままの自分に気づいたのは、まさに「内向的」という言葉を学んだことだった。それは、スーザン・ケインの著書『内向型人間のすごい力』(邦訳は講談社刊)のなかに出てきた。それまで自分の不具合は矯正しなければならないと考えていたチャンは、出張中に読んだ
この本で「内向的」という言葉に出合い、ハッとさせられた瞬間をこう思い出す。
「内向的という言葉を知ったことで、自分は故障しているのではない、ちょっと違っているだけだとわかったのです。そして、世の中にはほかにも同じような人たちがいるんだ、と。これは、自分のキャリアにとっても人生にとっても大きな転換点となりました」
5日間で3回もこの本を読み返し、その間何度も手を止め、顔を上げ、深呼吸せずにはおられなかったという。