千葉大学大学院園芸学研究科の研究グループは、エビや小魚を高温発酵(摂氏70度以上)させて得られる好熱性細菌が、動植物や環境保全に与える影響について調べていますが、好熱性細菌を多く含む堆肥をカブトムシの幼虫に与えたところ、通常の約1.6倍の大きさに育ちました。市販のエサに重量比で1パーセント混ぜただけのものなので、堆肥そのものの栄養というよりは、高温発酵させた肥料に含まれる微生物が成長を促進させたものと推測されます。糞を調べると、特定の腸内細菌が増えていました。
カブトムシがデカくなると聞けば、カブトムシ愛好家は喜ぶでしょうが、残念ながらこれは、メスだけに見られる性特異的な肥大化です。この研究で期待されるのは、デカいカブトムシを作ってバトルさせることではなく、むしろ家畜や養殖魚のサステナブルな飼料としての昆虫の活用です。カブトムシの幼虫は腐葉土を食べて成長するので、環境保全に貢献すると言われています。また、国連食糧農業機関(FAO)では、食糧危機対策のひとつとして、栄養価が高く飼育の際に環境負荷が低い昆虫を家畜の飼料に使うことを推奨しています。大きなカブトムシの幼虫は、大きなメスのカブトムシになります。大きなカブトムシはたくさんの卵を生み……という好循環で効率的に昆虫飼料が量産できるようになるというこの技術の利用例を、研究グループも描いています。
この研究では、カブトムシのメスの幼虫を大きくする方法がわかったばかりでなく、甲虫も人間と同じく腸内微生物が成長や健康に大きく関わっていることもわかりました。また、性特異的な成長ということから、腸内微生物と性ホルモンの相互作用という新たな研究分野の発展にもつながる可能性も見えてきました。
昆虫を直接食べる昆虫食には、大半の人が拒否感を持っているとの調査報告がありますが、大きくした昆虫を飼料にして効率的に家畜や魚を育てるのであれば、歓迎する人も多いでしょう。