窮地のリーダーとして腹をくくる|経営のヒントになる「人間の安全保障」活動とは(前編)

立教大学大学院の長 有紀枝 教授(撮影=藤井さおり)

見えにくい人が取り残されているという問題にどう向き合うべきか、そこには正解がない。「インクルーシブ・キャピタリズム」と銘打ち、あらゆる立場の人に資本へのアクセスを拡大すべきと発信している Forbes JAPANだが、この度、アカデミアでありながら、NGOの一員として実務家としても活動する立教大学・長有紀枝教授との対談が実現した。長教授の口から語られた「経営のヒント」となる活きた言葉の数々とは──。


実務と研究、二足の草鞋で活動中

──長先生の専門分野は?

国際協力に携わる実務家と大学教員という二足の草鞋を履いて活動しています。実務の世界では、1979年にインドシナ難民支援のために設立された日本の国際協力NGO「難民を助ける会」の一員として、難民支援や地雷対策という分野に1990年代初頭から取り組んで参りました。

研究者としては、現場での活動が原点となっていますが、大量の死にまつわる分野、ジェノサイド(集団殺害)の予防や国際人道法、国際刑事裁判、人間の安全保障に関する研究です。

──日本のNGOだからこそ、できることはあるのでしょうか。

確実にあると思っています。日本のNGOの国際協力に携わるようになって30年ほどになりますが、もちろん、最初から何か大きな展望とともに、NGOの世界に飛び込んだわけではありません。

覚悟が決まったのは、初めて駐在した紛争下の旧ユーゴスラビアの現場でした。たとえ規模が小さくとも、たとえ現場に入るのが欧米の巨大なNGOより遅くても、常に見過ごされ、取り残されている人々がいて、その人たちに自分たちは手を差し伸べることができる、という確信をもった時です。

また、これは現場によりますが、欧米と比べて政治的にも宗教的にも、あるいは地政学的にも中立な日本のNGOだからこそ、アクセスできる地域や人々がいること。具体的には、常に取り残され、見過ごされている障がいや難病を抱える人々、そして、政治的、宗教的理由で、援助の量が圧倒的に少ない人々に対する支援です。

原点は、留学時代に遭遇した民族差別

──先生が取り組んでいらっしゃる問題は、国際関係、ジェノサイド予防、ホロコースト、国際人道法、人間の安全保障など実に多岐に渡りますが、ご興味を持たれたきっかけはどういったところからでしょう?

出発点は、大学派遣の交換留学生としてアメリカのインディアナ州に留学していた経験です。大変保守的な土地柄で、留学先の大学も白人学生が中心で、学内には、KKK(白人至上主義の秘密組織)の学生団体まで存在していました。

私はスリランカの留学生と仲良しになったのですが、彼女のルームメイトは彼女の肌が褐色だという理由で、一晩たりとも同じ部屋で過ごすことなく、教科書や荷物をまとめて、部屋を出て行ってしまいました。

彼女は「このような屈辱は受けたことがない、ガンジーの気持ちがわかる」といってとひどく憤慨し、同時に深く傷ついていました。彼女と一緒に過ごす時間が長かったので、余計に差別を肌で感じたのかもしれません。
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インタビュアー=谷本有香(Forbes JAPAN執行役員・Web編集長) 文=中村麻美 写真=藤井さおり

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