窮地のリーダーとして腹をくくる|経営のヒントになる「人間の安全保障」活動とは(前編)

立教大学大学院の長 有紀枝 教授(撮影=藤井さおり)

──先生がお考えになられる「研究」とは、どういったものでしょうか?

私の研究は、お話するとぎょっとされることが多いのですが、虐殺や大規模な人権侵害が起きた現場の徹底した事例研究です。なぜそのような事態が起きたのか、どうしたら予防できたのか。「加害者」たちはなぜそのような意思決定をしたのか、そこにどのような動機や背景、プロセス、メカニズムがあったのか。類似の事例と共通項はあるのか。

何が普遍で、何がその事件(地域)固有の事情なのか。これらを調べ、分析していくことが私にとっての研究です。

実務の世界で行っている、今、生きている人を助ける難民支援とは対照的に、私の研究は死者と向きあい、その声を生きている人々に伝えることです。「過去」に学ぶことは、「未来」に繋がると思っています。難民支援は「現在」ですが、この過去と現在と未来をつなぐのが、もう一つの専門領域の「人間の安全保障」だと思っています。

自分たちの力を正しく評価し、迷わず判断する

──Forbes JAPANは、経営者の方に多く読まれているのですが、リーダー層のヒントになることはありますか?

自身を思い返すと、決してリーダータイプではないと思っているのですが、あえて申し上げるなら私はどちらかというと、平時より「危機のリーダー」なのかもしれません。

平時はたぶん人に嫌われたくないと思って、周りに気をつかいすぎるところがあります。ですが、腹をくくった場面、難民支援の現場や危機感のある現場、役職上、決断をしなければならないような状況での判断は、早いです。経営者の方も、きっと状況に応じて得手不得手があるのではないでしょうか。

──その優先順位は、どのようにつけていらっしゃいますか?

おそらく業種や職種によって異なると思いますが、私の場合は平時の開発援助よりも緊急支援向きなので、条件が限られ、目的が明確な緊急事態の方が、優先順位がつけやすいのだと思います。

また、目的を明確に持てれば、それを達成するための優先順位もおのずと明らかになるのだと思います。ただその時点で、財政・人材・経験・専門といった自分たちの力を過大評価も過小評価もしないことが、安全確保と危機管理上の大前提だと思います。


長 有紀枝(おさ ゆきえ)◎立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授、社会学部教授。認定NPO法人「難民を助ける会(AAR Japan)会長、「人間の安全保障学会(JAHSS)」会長。長年にわたりNGOの活動を通じて、緊急人道支援をはじめ、地雷対策や地雷禁止条約策定交渉にも携わる。ジェノサイド研究、移行期正義、人間の安全保障などを専門とする。21世紀の国際社会が直面する課題に、真摯に取り組んでいる。

>>後編に続く

インタビュアー=谷本有香(Forbes JAPAN執行役員・Web編集長) 文=中村麻美 写真=藤井さおり

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