独自のスタイルと言葉
その後、デンマークのインテリアブランド「HAY」の国内初のショップや武蔵野美術大学16号館、ブルーボトルコーヒーなど、ブランドの個性や使われ方を生かしたデザインで自身のスタイルを確立させていく。
済州島では、体験型宿泊施設を併設した「D&DEPARTMENT JEJU by ARARIO」を手掛けた。既存の建物を改修することで街に人を呼び込み、再生させていく。新しく巨大な商業施設を建てるのではなく、新旧を融合させるこの開発のスタイルを、長坂は「見えない開発」と称した。
スキーマでは家具デザインも担っていることも特徴の一つだ。Sayama Flatから持ち帰った古材から生まれた「Flat Table」はミラノサローネで出展しプロダクトにもなっている。家具からそれが置かれる建築をデザインすることもある。また、事務所では通常机には向かない素材であるスタイロとベニヤ板を使って作られたテーブルも使用され、「まかない家具」と称されている。
このように新たな手法や考え方に出会ったときに適切な言葉を与えることで、良し悪しの判断や反復ができるようになったと長坂は言う。「これまでにないもの」にそれを表す言葉と定義を与えるのも、長坂のスタイルの一つだ。
「一生完成しない」ことに向き合う
「必要なのかどうか」。長坂の答えにはいつもこのキーワードがついてくる。一見無骨でシンプルに見える作品も、実際には不要なものを削ぎ落とした結果なのだろう。
「日本には、全体を見渡す視点が足りていないのではないかと思うんです。個々をよくしようとする力や思いは強いけれど、全体を見られていない。誰も責任を取りたくないのかもしれません。そういうこともあって、最近は『ここをこうしたらよくなりそうだな』ということを自分で見つけてきて、クライアントを探すという動き方をしたりしています」
建築家が下請ではなく、自発的にプロジェクトをつくっていく。そうすることで、個別最適ではなく全体最適な建築のあり方が実現できるのではないか。