ノーマは2003年に開店し、世界一のレストランに5度も選ばれた名店だ。だがオーナーシェフであるレネ・レゼピは今月上旬、米紙ニューヨーク・タイムズに対し、ノーマを来年までにフードラボとして生まれ変わらせる予定であることを明かし、「経済的にも感情的にも、雇用主としても人間としても、(同店の経営は)うまくいかない」と説明した。
レストラン業界には現在、食品価格や労働コストの高騰により暗雲が立ち込めている。食品価格はここ1年で異例の高騰を続けており、例えば卵の価格は前年比で49%余り上昇。レストランの多くは利潤が減り、経営が困難となっている。
高級料理店も例外ではない。テイスティングメニュー(一口サイズの料理からなるコース)を800ドル(約10万円)で提供しているような店でも、人件費の上昇により利益率は減ってしまう。一流のシェフや従業員を必要とするノーマのような高級レストランではなおさらだ。
英ケニルワースの高級パブ「ザ・クロス」を総括するシェフのアダム・ベネットは「高級飲食業界は確かに圧力にさらされているが、こうしたプレッシャーのおかげで精神が研ぎ澄まされ、さらなる高みを目指すことができる」と語る。「レネの決断はこの業界の現状を反映したものだが、彼は異なる方向へと進もうとしている。さらなる深みへと進むことで、エキサイティングなものが生まれるに違いない」
だがノーマの閉店は、果たして高級飲食業界の終焉(しゅうえん)を示すものなのだろうか?
英シェフィールドにあるレストラン「ヨーロ(JÖRO)」の共同オーナーでディレクターのステーシー・シャーウッドフレンチは「このモデルには欠陥があり、残念だが高額請求することなしには成り立たない。そのため超富裕層しか食事ができない」と語る。高級飲食体験を手の届く価格で提供することを目指している同店では、1組当たりの食事の時間を制限しており、1営業時間枠に受け入れる客の数も1卓につき2組までとしている。
「現在起きているエネルギー危機により、従業員やレストランのコスト、材料や供給業者など、事業のあらゆる側面に影響が出ており、既に非常に少なかった利益がさらに減っている」。シャーウッドフレンチは昨年、事業を多角化しスタッフの成長を促すため、小売事業も始めている。
高級飲食業界をけん引するこうしたシェフたちにとって、ノーマの閉店は高級レストランの終焉ではなく、新たな始まりを意味する。
英トーキーにあるレストラン「ジ・エレファント」のオーナーシェフ、サイモン・ハルストーンは、ノーマの閉店について、著名シェフのマルコ・ピエール・ホワイトがミシュラン三つ星を返上したときのように感じると語る。「レネはこの業界のトップに君臨していて、何かを証明する必要はないのだ」
「彼らはこれから、他に邪魔されることなく開発に打ち込み、自分の知識を世界の新進気鋭の若手シェフと共有できる。彼の行動をたたえたい」
(forbes.com 原文)