能作の産業観光事業を率いるのは、社長・能作克治とその長女の能作千春だ。
「鋳造工場は『3K』といわれるが、幼い私の印象も同じ。当時製品は仏具や茶道具が中心で身近に感じられなかった」。大学卒業後、神戸でアパレル通販誌の編集に携わった。ある日、社内である錫製品が話題に。おしゃれな雑貨店に並んでいたのは、能作の製品だった。
「父はすごいものをつくっているのかも」。有休を取り工場を訪れると、若い職人が増え明るい雰囲気になっていた。ものづくりについて熱く話す職人を見て、家業への印象が変わった。
2010年に富山に戻り能作に入社。職人に交ざっての修業や、展示会出展、受注・出荷体制構築などをがむしゃらにこなした。店舗や従業員数も増え、仕事が軌道に乗り始めたころ結婚と出産をした。父や能作の役員である夫との会話は、仕事の話題が多い。
産後、会社は変化していくのに自分はかかわれないのがもどかしく、仕事が生きる糧だと気づく。第2子出産直後、社屋移転と産業観光計画が立ち上がる。製品購入者は、自身と同世代の30〜40代女性が多い。
自身もターゲットと考え、能作で働く女性や顧客と会話をすることでニーズが見えてきた。そして生まれたのが、結婚10周年を祝う錫婚式だ。挙式と食事、錫の鋳物製作体験で構成される。結婚10年目は離婚率が高まるタイミング。
「錫婚式は夫婦関係がよい方向に変わるきっかけになるはず」。夫は「千春には会社を大きくしてほしい」と掃除や子どもの送迎等をこなす。
今年は自身も社員からサプライズで錫婚式を贈られ、「その日から夫が洗濯もしてくれるようになった」と笑う。
現在は他県の式場と連携し富山以外での錫婚式もプロデュースする。「ものやサービスを通して幸せを提供できる企業でありたい」。
能作千春◎能作専務取締役。2007年に神戸学院大学卒業後、アパレル通販会社イマージュに入社し編集部に所属。10年に同社を退社し、家業である能作に入社。製造部物流課課長などを経て、16年に取締役に就任。新社屋移転を機に産業観光部長として新規事業を立ち上げる。18年に専務取締役に就任。次期、代表取締役社長就任予定。