ESG経営で評価されるホーチキ。信頼の循環と長期視点

山形明夫 代表取締役 社長執行役員

「厳しいですよ。でも、後ろ指をさされるところから調達するつもりはない。現在も電子部品の多くを国内の正規代理店を通して調達しています」

火災報知機メーカー、ホーチキを率いる山形明夫は、昨今の電子部品不足について胸の内を明かした。電子部品の品薄が表面化したのは昨年夏だ。同社は防災や防犯、情報通信領域でさまざま機器を提供しているが、その多くは電子部品を使う。このままでは欠品になる製品が続出する。

山形は先手を打って製品に優先順位をつけた。最優先で部品を確保することにしたのは火災報知機だ。同社は1918年に設立され、その2年後に日本初の公衆用火災報知機を日本橋に設置している。ただ、今回、火災報知機を最優先にしたのは創業の製品だからではない。

「火災報知機がないと消防検査に合格できず竣工できないため、多くの関係者に迷惑をかけます。また、私たちの火災報知機の代理店はほぼ専業。代理店の皆様にとって、欠品は死活問題です」

後回しになった製品は顧客に提供できなくなるおそれがある。当然、その部門からは不満が出た。

「仕事は取りに行くときより、断りに行くときのほうがストレスは大きい。そのつらさは、営業畑が長かった私もよくわかります。しかし、全体で悪くなるわけにはいかない。優先度が低い部門は成績が落ちても評価は下げないと約束して納得してもらいました」

優先順位をつけたほか、これまで3カ月~半年先までだった発注を1年分にするなどの工夫をした。そのかいあって、安定的に供給。競合からホーチキに乗り換えた代理店もあった。しかし、結果的にそれが仇となる。

代理店が増えると受注も増えるため、今年2月にとうとう欠品が出たのだ。海外から調達する道もあった。

しかし、冒頭に述べたように、むやみに調達先を広げはしなかった。ホーチキは紛争鉱物(武装勢力などの資金源になる鉱物)開示規則に対応するなど、ESGに配慮した調達をしている。たとえ窮しても、社会的責任を果たせないものはNGだ。

そもそも防災は責任が重くのしかかる領域である。山形がそのことを痛感したのは、入社して消火事業の配属になってからだ。火事で死傷者が出た建物で現場検証に立ち会い、「火災で亡くなる人を世界からなくす」と心に誓った。
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文 = 村上 敬 写真 = 苅部 太郎

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