作品賞や監督賞をはじめ最多11のノミネートを獲得したのは、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(ダニエルズ監督、日本公開2023年3月3日)。家族の絆をテーマにコメディ的要素も盛り込まれており、これまでロサンゼルス映画批評家協会賞など全米各地の批評家協会賞で作品賞に輝き、今期の賞レースをリードしてきた。
昨年、興行的にも世界的大ヒットを記録した「トップガン マーヴェリック」(ジョセフ・コジンスキー監督)は、作品賞のほか6部門でノミネートを果たし、作品的にも高い評価を得たかたちだ。しかし、この「トップガン マーヴェリック」を上回る9ノミネート(作品賞を含む)を獲得した作品が2つある。
「西部戦線異状なし」(エドワード・ベルガー監督)と「イニシェリン島の精霊」(マーティン・マクドナー監督)だ。前者は第一次世界大戦を舞台にしたエーリヒ・マリア・レマルクの同名小説を映画化したもので、現在Netflixで配信中。後者はタイミング良く日本での公開が始まったばかりだ。
第95回アカデミー賞の発表は3月12日(現地時間)の授賞式で行われるが、最高賞である作品賞への目下の下馬評は、やはり11ノミネートの「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」に圧倒的に傾いている。
ただ「イニシェリン島の精霊」も有力候補に名を連ねている。というのも2018年の第90回アカデミー賞で、監督のマーティン・マクドナーがメガホンをとった「スリー・ビルボード」が作品賞や脚本賞他6部門で7ノミネートされており、監督自身の実力も高く評価されているからだ。
マクドナー監督は、「スリー・ビルボード」では娘が殺されたことをきっかけに警査署に火炎瓶を投げるという激しい気性の女性主人公を描いた。今回の作品でも、長年にわたり親交を続けてきた友人に突然絶縁を宣言する激烈な登場人物を登場させている。
ウクライナ侵攻も思わせる対立
「イニシェリン島の精霊」の舞台は、1923年のアイルランド。本土では激しい内戦が続いていたが、西海岸沖に浮かぶイニシェリン島にまでは戦火は及ばず、平穏な日々が続いていた。島で暮らすパードリック(コリン・ファレル)は、誰からも愛される好人物で、パブに集う人たちと仲良く会話を交わすことを人生の楽しみとして日々を送っていた。
気のいいパードリックはペットとしてロバを飼っている (C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ある日、パードリックは海辺の家に住む長年の友人コルム(ブレンダン・グリーソン)を訪ねて、パブへと誘うが、突然、絶交を告げられてしまう。理由を問い詰めると、コルムは「ただ、お前が嫌いになっただけだ」と取り付くしまもない。絶交された理由を考えてみるが、心当たりが浮かばない。