貧困は、ある日突然やってくる。
「誰だってホームレスになりうる。決して他人ごとじゃない」と語るのは、ロック界のスーパースター、ジョン・ボン・ジョヴィ(60)だ。世界的バンドBON JOVIのリーダーとして長年活躍する一方、慈善活動に情熱を注ぎ、米Forbesの「最も慈悲深いセレブ」ランキングで1位に選ばれたこともある。
2011年、ジョンと妻のドロシアは、ユニークなレストラン「JBJ(ジョン・ボン・ジョヴィ)ソウルキッチン」を米フィラデルフィアに開業した。「Pay it Forward」(善意をつなぐ恩送りの意味)を掲げるこの店では、お金がある人もない人も、平等に席について食事をすることができる。
昨年9月、米国で開催された「Forbes400慈善サミット」に、ジョンは妻ドロシアとともに登壇。慈善事業家やビリオネアたちを前に、ロックスター夫婦が訴えたこととは。
ジョン・ボン・ジョヴィ(以下、J):僕は昔、アリーナフットボール(室内版アメフト。プロリーグは2019年に破産)のチームを所有していたんです。ビッグ4(NBAやNFLなど北米4大プロスポーツリーグ)の人気に勝つにはどうすればいいかと考えていて、思いついたのが慈善活動でした。目立とうと思って、まずはお金を出しました。困っていて何かしら支援が必要な人のために、10万ドル(約1300万円)を自腹でね。
そんなことをしていたら、チームの地元フィラデルフィアで「ホームレス問題のマイケル・ジョーダン」ともいうべき人物を紹介されました。それがシスター・メアリー・スカリオン(ホームレスの救済活動で知られる修道女。2009年に米『TIME』誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出)です。彼女と出会って、僕はホームレス問題に目覚めた。これが長い道のりの始まりです。
あらためて言いますが、ホームレスになるという状況は、いつ、誰に起きてもおかしくない。人生なんて、景気が悪化すれば一変してしまうものなんです。そう気づいたことが、次のステップにつながりました。「JBJソウル・キッチン」のもととなるアイデアが浮かんだのは、ドロシアと2人でテレビを観ていたときでした。
ドロシア(以下、D):誰でもおいしい食事を楽しめるレストランスタイルの店を開く、という考えに取りつかれてしまって。私たちがやりたかったのは、食材や運営費用を寄付で賄う店ではありません。お金に困っている人は、食事代を払わなくてもいい。その代わり、ボランティアとして店の仕事を手伝ってもらいます。一方で、食事代が払える人には、自分が食事をしたついでに、恩送りのかたちで他の誰かのお代をもってもらうのです。
J:自分の食事代のほかに、テーブルに20ドル札を1枚置いていってくれれば、困っている誰かの食事代を払ったことになるんですよ。困っているといっても、映画に出てくるような生活困窮者のイメージは捨ててほしい。彼らはどこにいてもおかしくない隣人であり、我々のコミュニティの一員です。コロナ以前は、飲食店の店員やバスの運転手だったかもしれない。
「ソウルキッチン」も、コロナ禍で通常営業ができない時期がありました。店の洗い場に外部の人間を入れられなくなってしまったからです。それまで皿洗いはボランティアにやってもらっていたので、やる人がいなくて。結局、洗い場は僕が引き受けました。