意思決定のエキスパートであるアニー・デュークいわく、目標や決断には、「ただし、〇〇の場合はあきらめる」といった前提条件を設け、逃げ道を作っておく必要がある。また、プロコンは「先入観を増長」するので避けた方が良いという。「人は何かを考え始めた時には既に、自分の中で結論が出ている。そのため、自分がやりたいと思ったことに対しては多くのメリットを挙げ、逆にやりたくないと思ったものにはデメリットの方を多く考える」
また、実際には重要度が異なる要素をすべて同列に扱ってしまうことも問題だ。例えば、有害な上司がいるというデメリットは、オフィス内にドリンクサーバーがあるというメリットよりもはるかに重要だ。
プロコンに代えてデュークが提案するのは、例えば「今から1年後の自分はどのように感じているだろうか」と想像してみることだ。「自分はどんな環境ならもっと幸せになれるかを考えることが、より有効な手段だと思う。プロコンを作ると、何らかの真実を明らかにしたという思い込みが生じてしまう。だが明らかになるのは、自分の持つ先入観であることが多い」
人は何かを変える決断を下そうとする時、「損失回避性」という習性により、変化への抵抗感を抱く傾向にある。デュークによると、人は行動経済学者リチャード・セイラーが提唱した「心の会計(メンタルアカウンティング)」という認知現象の犠牲になりやすく、「損失を受けて心のアカウント(口座)を閉鎖」したり、目指そうとする終着点の手前で立ち止まったりすることを好まないのだという。
「未実現の損失が生じた場合、そこで経営を止めたり、株を売り払ったり、仕事を辞めたりといった『アカウント閉鎖』行動を取ると、それが実現損失となってしまう」