人口8000人の町にある、「世界一」のセレクトショップ

キッツビュールにあるセレクトショップ「Frauenschuh」(筆者撮影)

昨年の12月末、僕はオーストリアのチロル山脈にある人口8000人の町にいました。僕の住むデュッセルドルフから車で8時間ほど南に走り、ドイツとの国境を超え、山々を見えてくるなかをさらに走り、曲がりくねった山道をいくつも越えて辿り着くキッツビュール(Kitzbühel)という町です。

旅の目的は、この町にあるセレクトショップでのポップアップ。前回のパリコレ(展示会)に同店のオーナー家族が見えた際に企画の話が進み、訪ねることになったのです。

こんな小さな、山奥の町になんでわざわざ……と思うかもしれませんが、実はこのお店は、僕らのブランド「suzusan」を世界で最も販売するセレクトショップ。毎シーズンパリコレに必ず来て、新作をたくさんオーダーしてくださる、長いお付き合いのお店なのです。

日本ではほとんど聞いたことのない町にあるお店が、なぜパリ、ミラノ、ニューヨーク、東京などの大都市の百貨店やセレクトショップよりも販売するのか? 今回はそんな内容です。

アジア人のいないローカルなリゾート

町に辿り着いてまず目にするのが、スキー靴を履いた人たち。ここはドイツ語圏の人たちが訪れる高級ウインターリゾートで、8000人の人口に対して多い時には2万人の観光客が冬山でのひと時を過ごすそうです。

日本ではスキーと聞くとスポーツのイメージが強いですが、ヨーロッパではどちらかというとリゾートという立ち位置で、人里離れた静かな雪山にこもり、家族で数週間のバカンスを過ごします。若者が風を切って雪山を駆け降りる、というよりも、楽しく雪と遊び、夜は地元の小さなクリスマスマーケットで焚き火を囲んでホットワインを飲んで、という感じです。

Getty(カンプ画像)

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この町で3日間を過ごして印象的だったのが、滞在中に一度もアジア人に出会うことがなかったこと。道ゆく人たちの話を聞いていてもほとんどがドイツ語、本当に時々英語が聞こえてくるぐらいで、ドイツ人とオーストリア人コミュニティーで形成されていました。

パリのデパートでは中国語とアラブ語での接客がフランス語より多く聞こえ、観光地に行くと僕らアジア人をはじめ様々な国籍の人たちが多いことを考えると、現在の社会でこのローカルなコミュニティは珍しいもの。トラベルガイドにも載っていないのか、日本語で検索してもこの町の情報はわずかしか出てきません。ただ町の中心に歩いて行くと有名ブランドのフラッグシップストアが並んでいたりと、やはり富裕層の町という趣です。
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文=村瀬弘行

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