まずは遠回りして家に帰るところから
湯気:日々時間に追われてギリギリの暮らしをしているなかで、バグを楽しむ余裕なんてない、という人も多い気がします。田村:確かに、考え方を大きく変えたり、まったく新しい挑戦を始めたりするのはしんどいですよね。でも例えば、会社と家を電車で行き来していて、退勤後は帰るか飲みにいくか、くらいの選択肢しかないという人だったら、ちょっと遠回りして帰るというだけでも僕はいいと思うんです。とりあえず(電動キックボードの)LUUPに乗ってみるのはどうですか? 僕は最近、LUUPで家に帰っている途中、近所でもう40年もやっているという中華屋さんを見つけたんですよ。
家の近くなのに全然知らなかったんですが、入ってみたらおいしくて。寄り道したからこその出合いでした。移動するときって、自然と最短ルートを考えて、それが最良だと思っていませんか。合理性を追求するのはある面では大事だけど、それに偏りすぎるとまるで機械みたいに生きている感じがしてきてしまう。生かされちゃってる、という感じでしょうか。
湯気:社会が決めたものさしや、人が書いたシナリオの上を、まるでベルトコンベアのように流れていくようなイメージですね。
「決めつけない」を積み重ねる
田村:僕の生き方なんて、たぶん誰にも予想がつかないと思いますよ。最近も、競歩がしてみたいとか、ほら貝を吹きたいとか、思いついてはいろんなことに手を出しているし。たまに「淳さんって結局どうなりたいんですか?」って聞いてくる人がいるんですけど、その質問は、ちょっと要注意だと思う。合理的で腑に落ちる答えを聞いて安心したいから、そういう質問をするわけですよね。僕は誰かに対して「先が楽しみですね」とは言うけれど、「結局何がしたいんですか?」とは言わないようにしています。というか正直、何がしたいか簡単にはわからない人のほうが、話していて楽しいですよ。
湯気:淳さんはまさにバグの達人と言っても過言ではないと思うのですが、何かコツや秘訣はあるんでしょうか。
田村:とにかく「決めつけないように」と心がけていますね。人間、気を抜くとすぐに決めつけちゃうでしょ。例えば「トラック運転手」と聞いたら男だと思い込んでしまう。だから、誰と話すときも、何に対しても、とにかく「決めつけない……決めつけない……」と自分に言い聞かせ続けています。でもこういうのって、自分の内面だけでコントロールし続けるのは難しい。
お坊さんみたいに座禅を組んでひとりで道を極める、みたいにできる人はいいんですけど、現代人にそんな余裕はなかなかないですよね。だから、人と交流するのがいちばん早い。
僕は、時間を無理やりつくってでも人に会いに行くようにしています。それで新しい情報を仕入れて、即行動に移してみる。いましているこのネイルも、Z世代の男の子のネイルを見て「カッコいい!」と思ったからなんです。やってみたら楽しくて、すぐにハマりました。「男がネイルなんて」って言われることもあるけど、ナンセンスですよね。
田村淳が考える「#バグのすすめ 1mmのズレを楽しむキャリア・働き方論」。インタビューの続きは『Forbes JAPAN』2023年3月号にて。