学生時代からの知り合いだった川原と結婚し、公私ともにパートナーとなったのは14年。同年、『人生がときめく片づけの魔法』が米国で翻訳出版された。米「ニューヨーク・タイムズ」紙のコラムで紹介されて人気に火が付き、書店イベントや講演依頼が次々と舞い込むようになる。
川原は当時の状況をこう述懐する。
「あるとき、問い合わせメールのほとんどが英語になっていたんですよ。僕は英語が全然できなかったので、英文のメールを翻訳サイトに流し込んで内容を理解し、日本語で返事をつくってまた翻訳サイトに入れて英文で送るということを繰り返していました。その数が週200件に上り、もう必死でした」
日米を行き来するようになり、次第に年の半分は米国に滞在する生活に。そして15年、米『TIME』誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれると、忙しさはピークに達した。
近藤麻理恵◎1984年、東京都生まれ。19歳で片づけコンサルティング業務を開始し、独自の片づけ法「こんまりRメソッド」を編み出す。著書『人生がときめく片づけの魔法』は累計1400万部のベストセラー。新著は川村元気との共作小説『おしゃべりな部屋』。
川原卓巳◎1984年、広島県生まれ。人材教育系の会社を経て、近藤のマネジメントと世界展開のプロデュースを担当。オンラインサロン「SENSE -自分らしさ研究室-」「PRODUCERS」主催。著書に『Be Yourself 自分らしく輝いて人生を変える教科書』。
同時に第1子が誕生し、幼な子を日本に残して海外出張することもためらわれ、米国への移住を決意。シリコンバレーとハリウッドに拠点を置いた。
「だから英語もほとんどできない状態でアメリカに進出することになっちゃったんですよ」近藤はそう苦笑するが、話を聞いていくうちに、その飛躍が決して偶然ではなかったことに気づかされる。
例えば、出張で米国に行くたびに、近藤はホテルだけではなく民泊をたびたび利用した。現地の住宅の構造や暮らし方を知りたかったからだ。
「正直なところ、アメリカは日本と違って家も広いし、片づけに困ることなんてあるのかなと疑問に思っていました。でも、実際に人が暮らしている家を見ると、日本では当たり前にある下駄箱がなくて靴はクローゼットの床に散らばっていたり、広すぎるガレージにモノがぎっしりで家もう1軒分の量になっていたり。日本の当たり前がアメリカの常識ではないのだと知った半面、アメリカでもお片づけへのニーズがある、と実感できたのです」(近藤)
川原も、現地の空気を敏感に感じ取ってきた。
「アメリカで『こんまりRメソッドは、ZEN (禅)のようだね』と言われたことがあったんです。『ときめき』が体や心の声に耳を傾けるという点が、禅の考え方に通じると。これが大きなヒントになりました。
スティーブ・ジョブズが禅に大きな興味をもっていたことはよく知られているし、ちょうどマインドフルネスが注目を集めるなど、アメリカで禅的なものに対するブームが来ていた。現地で生の声を聞くことが、ビジネスに気づきを与えてくれたのです」(川原)