高校2年時の父の急逝をきっかけに医者を目指し、東大医学部に進学。卒業後、医者3年目だった2007年に、軍事政権下のミャンマーに飛んだ。「人の生死にとことん向き合いたい」という想いからだった。ミャンマーでは、NPO法人ジャパンハートの一員として医療支援に尽くした。
2011年に東日本大震災が発生すると、帰国して被災地の医療支援に従事。それをきっかけに在宅医療の重要性に気づき、2013年に東京で在宅医療を提供する「やまと診療所」を設立した。そのスタッフ集団が「TEAM BLUE」だ。
「おうちにかえろう。病院」 提供
そして2021年4月。東京・板橋に新しく開設したのが、在宅医療と連携した地域包括ケア病棟の「おうちにかえろう。病院」。この病院を通して、安井は何を目指しているのか。狙いや展望を聞いた。
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「おうちにかえろう。病院」の2つの役割
──「おうちにかえろう。病院」は、どのような病院ですか?多くの人が理想とする「最期まで自宅で過ごす」を実現するための病院です。医療の発達により多くの人が「⾮・健康寿命」を⽣きるようになりましたが、我々は患者さんに「⾮・健康寿命」の期間も含めて、最期まで“⾃分らしく”⽣きていただくお手伝いをしたいと考えています。
この病院の役割は大きく分けて2つあります。ひとつは何かしらの病気があって急性期病院に入り、次の行き場を探す患者さんを受け入れること。
急性期病院から出てきたとき、患者さんの頭の中は8〜9割は「不安」で埋め尽くされています。自分ができなくなってしまったことに対する喪失感です。「もう右手が思うように動かない。これまでのように生活できない。どうしよう」と。その状態では主体的に「おうちに帰ろう。」とは思えないですよね。だからこそこの病院があります。
僕らが最も重要視しているのはコミュニケーションです。患者さん自身が現実を受け入れてポジティブになっていく過程をサポートするんです。例えば、「犬と散歩するのが私の楽しみだった」とか「時々遊びに来てくれる孫にお小遣いをあげるのが楽しみだった」とか、「近所のお友達と旅行に行くのが楽しみだった」とか、そういう話を引き出すところから始まります。
そうして「それって本当にできないんでしたっけ?」という問いに行き着いたときに、現状に合わせた状態で「できる」ということが分かれば、自宅に帰ろうという気持ちが立ち上がってきます。