成長し、自らの市場価値を高めるために
──まずは、リチカ参画に至った経緯をお話しいただけますか?
僕は、ビジネスや社会とは縁の遠いところで過ごしていたのですが、20歳の時に就職した会社の経営者さんから人生や仕事に対する考え方を教えていただきました。それから自分自身を見つめ直して、大前研一さんが学長を務めるビジネス・ブレークスルー大学に4年間通って、仕事を続けながらめちゃくちゃ勉強しました。授業はグローバルな経営学に関する内容が多かったので、その内に自分もグローバルに活躍できる人材になりたいと思うようになりました。そこでアメリカやイギリスのMBAを目指そうと勉強し始めたんですが、当時、英語ができなくて、かつ海外にも行ったことがなかったので、フィリピンのセブ島に語学留学に行ったんです。しばらく学校に通いましたが、自分が満足するようなカリキュラムの学校がないことが分かり、自分で現地に学校を立ち上げてしまいました。それが28歳の時です。4年ほど経営を手掛けたのちに事業譲渡し、その後帰国して、、それまでの経験を生かしながら12、3社の仕事を業務委託のような形で手伝っていました。その中の1社がリチカでした。

実はその頃、自分の限界を感じ始めていたんです。コンサルティングの業務委託は自分の経験を切り売りするようなものなので、自分が成長した感覚もなければ、このままやっていても自分の市場価値はどんどん下がっていくのではないかという危機感がありました。であれば、1社にフォーカスした方がいいんじゃないかと思い始めたタイミングで、ちょうどいまのリチカの代表である松尾から取締役をやらないかという話があり、入社して4年半が経ちました。
これまでの人生を振り返ると、行き当たりばったりで意思決定をしてきたところがあって、何をするかよりも誰と働くか、どんな環境をつくっていくか、みたいなことを大事にしてきたんですね。リチカは、自分にとって非常に居心地の良い環境でした。

かつて僕自身、フィリピンで多くの人を採用していましたし、他のさまざまな会社も見てきたなかで、多くの人たちが働く会社には、ちゃんと働かない人もいるし、ビジョンに共感しない人もいるものだと思っていました。ところが、リチカは違いました。それまで性悪説で考えていたつもりはないのですが、そういう部分もあるなという見方をしていたなかで、リチカでは誰もが会社の考えやプロダクトに強く共感し、性善説に則って動いていることにカルチャーショックを受けて、このメンバーと仕事をしていきたいと思ったんです。どんな環境で誰と働くかを重視する自分に、ぴったりフィットしたんですね。
スタートアップ企業に役員として関われるようなチャンスもそうそうありませんし、成長という観点から、自分自身の市場価値も上げられると思えたことも大きかった。

──なるほど。皆が一丸になって同じ方向を向いているということですが、リチカの社風やカルチャーについて、もう少し具体的に教えていただけますか?
ミッションとバリューを明瞭に言語化していて、それを判断軸にメンバーそれぞれが動くんです。具体的に言うと、例えばバリューの中に「相手志向」という言葉があります。対お客様であっても、社内であっても、相手志向をベースにコミュニケーションすることを大切にするという考え方ですが、これは単に相手に優しくするという意味だけではなくて、時には厳しい内容であっても、相手のためであればきちんと伝えるということです。また、お客様に対して最高の体験を提供することも含まれています。実は今年の半期の決起集会のときに、お客様から感謝の声を集めてきたメンバーがいました。「リチカさんがいないと私たちの会社は駄目になってしまいます」「リチカさんありがとう」みたいなことを仰ってくださっている20社ほどの動画メッセージを観て、社員みんなで泣いたんです。現場のメンバー一人ひとりがバリューを体現できているからこそ、喜んでいただけているのだろうと思って、僕も感動しました。

僕が携わり始めた頃の社員はまだ12、3名くらいでしたが、いまでは90名を超えています。業務委託やアルバイトも入れるともっと多いですが、会社の根本は変わっていません。良いところをきちんと伸ばして進んでいるという実感があります。

テックがクリエイティブの総量と品質を上げる
──クリエイティブパートナーとして「リチカ クラウドスタジオ」や「クリエイティブファーム」などの事業がありますが、これまでの成長と合わせてそれぞれご説明いただけますか?
僕がまだ入社する前のことですが、リチカは元々、カクテルメイクという社名でクリエイティブエージェンシーのような事業を手掛けていました。テレビCMの制作やYouTubeの運用などを行う受託ビジネスです。当初、制作会社をターゲットに動画が簡単につくれるツールを開発してリリースしたところ、制作会社だけでなくメディアやデジタル広告を運用する代理店、さらには社内のインナーコミュニケーション用に使いたいなど、想定外のところから多くの引き合いが来て、事業がぐんと伸びました。
そうして誰をメインターゲットにどんな課題を解決するのかを明確化することなく経営を進めていたのですが、やはりそれでは続かないだろうと考えて一度立ち止まり、我々の顧客は誰なのかを分析することにしました。その結果、事業形態を変えることにして、動画の制作ツールを提供するポジションから、マーケティング領域で成果の出やすいクリエイティブを誰でも簡単につくれるクラウドサービスの提供へとシフトしました。

──タイミングを見極めて、軌道修正を行なったということですね?
そうです。さらにいま、次の変革期を迎えています。マーケティング領域に特化してマーケティング動画や静止画を量産・改善できるクラウドサービスを提供していると、ツールの使い方以外での相談が増えてきたんです。例えばSNSの運用もしてほしいとか、広告の運用やブランディングをやってほしい、リブランディングしてほしいとか、採用マーケティングをちょっと手伝ってくれみたいなことまで。そこで、ブランディングを含むマーケティング領域すべてを支援するためにつくったのが「リチカ クリエイティブファーム」です。「RC総研」は、いまお話した2つを補足するための情報機関のようなものですね。
──いまの時代背景と重ねて、どのような将来性を見込んでいらっしゃいますか?
実は僕らがやりたいことは、マーケティングの課題を解決したいというよりも、クリエイターの課題を解決することなんです。いまはマーケティングの用途が非常に多岐にわたっていて、デジタル広告やSNSなどに加え、配信面も増えている。タクシーの広告配信もあれば、FacebookやInstagram、TikTokもあるなかで、例えばテレビCM用につくった動画をそのままFacebookで発信しても、配信面に合っていないので伝わりにくいし成果も出づらい。そこで求められているのは、それぞれの配信面に合ったクリエイティブをつくることです。つまりクリエイティブの総量が求められる時代になったという社会課題があり、そのうえで僕らはクリエイターの負担を解決していきたいんです。
僕らの強みは、クリエイティブエージェンシー機能とテクノロジーをもっていることです。例えばFacebookで1シーン目、何秒だったら成果が出やすいかなど決まっていたりするので、それをパターン化して設計図化することができます。テックによって設計図通りにクリエイティブを量産していくことができると、デジタル広告のクリエイティブは別に人がつくらなくても良くなりますから、クリエイターは空いた時間を本質的なところに充てられるようになります。
人がつくらなくていいものをサイエンスやテックで解決し、人がつくるべきところはクリエイターが腕を振るうという環境を整えることによって、クリエイティブの総量が増えても、クリエイターはクリエイティブを手掛ける本質的なところにフォーカスできるようになります。それによって、この業界の多重下請け構造によって長時間労働に苦しんでいるクリエーターの人たちの環境改善にも繋がりますし、クリエイティブの総量を増やしつつ、品質も上げることができると思っています。
趣味はリベラルアーツを学ぶこと
──この仕事をしていて良かったと感じることとは?そしてモチベーションややりがいを感じるのはどんな瞬間ですか?お客様からの感謝の声を聞いた時、やっていて良かったと思えますね。それといま、僕は100人近くの社員の人生を預かっているわけですが、スタートアップなのでまだまだ潤沢な資金があるわけでもないですし、ひとつヘマをすると潰れてしまうかもしれません。そうしたなかで、メンバーたちのCAN(できること)が増えるとか、彼らが思っているWILLが叶っているような進化を目の当たりするのが、僕は一番うれしいなと思います。

──経営者ならではですね。そんな中西さんのご趣味は何でしょうか?
最近、物理や哲学、歴史や古典などのリベラルアーツに興味があって、いろいろな本を読んでいます。好き過ぎて、それが趣味になっているというか、勉強が趣味というか。物事の本質を知りたいですし、起きている事象の要因を探りたくなるんですね。イーロン・マスクもそうですが、物理学を学んだ人が経営者になっているケースも多いですよね。恐らく、起きている事象の要因を分解して考えることに長けているからではないでしょうか。物理学的な思考をインストールしながら物事を考えるのは楽しいです。よく行くサウナでも、一人でそんなことばかり考えています。
──そんな中西さんが、Forbes JAPAN SALONのメンバーになられた理由とは?
まだスタートアップで、さらに大きくしていく会社の代表をしていくうえで、先輩方や、同じステージの方たちがいるコミュニティに入ることは非常に有益だと考えたからです。どんどん情報交換をしていきたいと思っています。
特に、僕はまだ100名以上の規模の会社を経営した経験がないので、すでにIPOしている、あるいはさらに先を進んでいる経営者の方々の抱える課題をお聞きすることは、先の見通しを良くしていく意味でもすごくプラスになると思っています。
──メンバーに対して、何かメッセージがあれば聞かせてください。
ビジネスとしてなのか、人としてなのかは分かりませんが、貢献できることはぜひさせていただきたいと思っています。仕事以外でも、交流できればうれしいです。
もしデジタルマーケティングやクリエイティブ関連でお困りの方がいらっしゃれば、ぜひお声掛けください。多分何でも対応できますので。

なかにし・ゆうき◎セブ最大級の英語学校Brighture English Academyの創業、国内大手エネルギー会社をはじめ複数の事業開発を経て当社参画。幅広いBizDev実績とマネジメント経験を活かしビジネスサイド全般を管掌。2021年、COO(最高執行責任者)に就任。2023年、共同CEOに就任。