今回は新しい三つ星はなく、一番の話題は、2店が新しく二つ星を得たこと。フランス料理「セザン」は2021年7月、日本料理「明寂」は2022年4月にオープンと、どちらも開業間もない店。今の料理を読み解くヒントを探るべく、二人のシェフにインタビューした。
「旬と瞬」 ダニエル ・カルバート氏/セザン
私はイギリス出身で、ニューヨーク、フランスの三つ星店で働きましたが、昔からどうしても日本に来たかった。うまく説明できませんが、日本の食材の質とものづくりにかける職人的な気質、その両方に魅きつけられたのだと思います。日本人の勤勉さ、几帳面さも、イギリス人である私の性分にあっています。日本は南北に長い国で、旬を大切にしている。日本料理の店に行くと、1年のうちの一週間しか食べられない食材があり、皆がそれを心待ちにしているのです。伝統的なフランス料理を学んできましたが、新しくここでつくる料理のインスピレーションは、日本料理から得ることが多いです。それでも、大切にしているのは食べた時にフランス料理と感じられるバランスです。
例えば、イクラときゅうりの料理にカツオと昆布の出汁を使っているのですが、あくまでも「隠し味」。食べた時に日本料理的な味わいが前面に出ないようにしています。料理の構成要素で特に大切にしているのはソースです。中でも、ベースになるストックを澄んだ味わいにすることが大切です。
かなり煮詰めてしっかりとしたソースを作るので、ほんの少しの雑味も、最終的に大きくなってしまう。良い食材を使って、素材にストレスをかけず、丁寧に味を抽出することを心がけています。
また、特にこだわっているのは、出来立ての状態でサーブすること。作り置きをすれば、作る側は楽ですが、本来の味が失われてしまいます。炊き立てのご飯と、何時間も保温されたご飯の味は、当然違いますよね。肉や魚の火入れに、真空低温調理機を使わず、昔ながらのフライパンやオーブンを使うのも同じ理由です。機械に頼らない料理作りを次の世代に伝えていきたいと思っています。
夏のメニューで、トマトのタルトがありましたが、タルトのベースを焼くところから当日の早朝にはじめて、8つのレイヤーを昼までにつくるのです。もちろん、ディナー用にはもう一度つくります。本当においしい瞬間は一瞬です。その瞬間を見極めて、最高の状態でお客様の前に出す。つい最近まで上海蟹のメニューがありましたが、仕立ては日々変わっています。
「いつ来ても新しいね、また来たい」。そう思っていただければ嬉しいです。それと同時に、20年後にも残り続ける、そんな料理をつくっていきたいと思っています。