食&酒

2023.01.28

ミシュラン東京 新2つ星、二人の料理人は何を極めているのか?

明寂 中村英利氏(c)pond_gallery

「水の味を伝えたい」 中村英利氏/明寂

自然のありのままの料理を提供したいと考え、明寂と名付けました。自分の料理は「受け身の料理」だと思っています。私は一介の料理人です。「いま」という時代のあるがままを受け入れて、来店いただいたお客様に心から幸福を感じてもらいたい。

食材は世界的に高騰しています。情熱を持った生産者の方々の手掛けた食材は確かに素晴らしい。でも、有名な生産者に注文が殺到するような「一極集中」のような競争に参加するつもりはあまりないのです。


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自分が大切にするのは、ブランドではなく、食材そのものの生命力。市場で高く評価されているものに限らず、手にして、香りをかぎ、味わった時に、命の力強さを感じる食材に、心踊らされます。

店で食事の前に必ず提供するのは、野菜と塩と水だけでとった「一番出汁」。和食の根本は、鰹節と昆布の出汁で、長い歴史、文化がある大切な食材、料理法です。

でも、使う量をなるべく減らすようにしています。枯渇が問題視されている昆布、作り手がどんどんいなくなってしまっている鰹節など、生産現場を見、声を耳にするにつれて、それがなくてもできる料理があるのではないか、と考えるようになったからです。

また、料理に必ず鰹昆布出汁を使えば、コースを通して全て出汁の味になってしまう。それよりも、出汁の味もあれば、食材のそのままの味もあった方が良いのではないか。出汁を使わずに仕上げた料理を召し上がったお客様が「この食材はおいしいですね」とおっしゃってくださるのですが、食材そのものよりも、私が一番伝えたいのは、「水」の味なのです。


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私の母は長野出身で、夏休みに祖母がやっていた畑で食べたキュウリやトマトの味は、まさに生命力のある「水の味」でした。初めて京都に修業に行った時に、手を洗ったときの、とろりとした水の柔らかさに驚きました。そんな水の美しさ、おいしさが、日本料理の根幹にあると思うのです。

修業先の師匠は日本料理の「切る」技術が抜群で、その方が切ったものは本当に命が宿るように見えたものです。「真剣」という言葉は、昔は本当に、生死をわかつ意味があったと思います。今の時代に、私は「切る」ことで、食材の命を輝かせたい。自分にも言い聞かせ、店のスタッフにもそう伝えています。

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文=仲山 今日子

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