映画

2023.01.21

自分の「限界」を意識すると、強く優しくなれる?丨映画「アイ・アム・サム」

映画「アイ・アム・サム」より イラスト=大野左紀子

幼い子どもと親の関係ほど非対称的なものはない。

親は知力、体力、経験においてすべて子どもに優っており、子どもからすればそれが「安心」であると同時に「抑圧」にもなり得る。しかし、親の方に障害があるなどして、この非対称性が一般より早く崩れるケースもある。そこでの親子関係には何が起こるだろうか。

今回取り上げる『アイ・アム・サム』(ジェシー・ネルソン、2001)は、知的障害をもつシングルファーザーと幼い一人娘の愛情を見つめたドラマだ。

登場する数々のビートルズナンバー(さまざまなアーティストによるカバー)も印象的な、いわゆるハートウォーミング系の作品で、障害者への差別や片親の子育てという現実のハード面はあまり出てこないが、「感動ポルノ」と言われるようなあざとい演出を慎重に避けている点は好ましい。

娘が7歳になった時、親子は引き離される


スターバックスで整理・清掃の仕事に就いている主人公サム・ドーソン(ショーン・ペン)は、若干ゆっくりめながら丁寧な仕事ぶりとフレンドリーな笑顔で周囲から愛されている。毎週ビデオ鑑賞会で集まる同じ知的障害者の仲間たちとの関係も良好だ。


主人公サム・ドーソン/ Getty Images

冒頭のタイトルロールでクローズアップされるのは、コーヒーショップのさまざまな備品を若干不器用ながらも几帳面に並べるサムの手。サムの目線と一体化したこのカメラワークは、劇中でもたびたび使われ、語彙は少ないが感受性の豊かな彼の体感や感情の表現となっている。

かつて一夜の宿を貸したホームレスの女性との間に子どもができたものの、相手から生まれたばかりの赤ちゃんを押し付けられて途方に暮れるサムだが、向いのアパートの老婦人アニー(ダイアン・ウィースト)の助言を得ながら懸命に育児に励む。

ビートルズの曲からルーシー・ダイヤモンド(ダコタ・ファニング)と名付けられた女の子は、すくすくと成長。しかしルーシーが7歳になった時、サムの養育能力を疑った児童福祉局職員によって親子は引き離され、週2回2時間の面会しか許されなくなる。

思い余ったサムは、新聞広告で見つけた凄腕弁護士のリタ(ミシェル・ファイファー)を突撃訪問。リタは迷惑がるものの、たまたまその場を見ていた同業者たちに見栄を張って「無料奉仕よ」と答え、二人の裁判闘争が始まる。やがて、サムの真面目さや純粋さに打たれたリタの中には、ある変化が起こっていく。

この間にルーシーは、施設から里親ランディ(ローラ・ダーン)の元に預けられるが、互いを強く求める父と娘の絆の深さに、養子縁組を希望していたランディの心もまた動き始める。

サム・ドーソン役を演じたショーン・ペン(2001年)Getty Images

サム・ドーソン役を演じたショーン・ペン(2001年)/ Getty Images

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文=大野左紀子

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