みずほリサーチ&テクノロジーズは2022年度の家計負担が9.6万円程上昇すると試算した。「値上げの許容度が高まっている」わけではないが、原油価格の上昇やここまでの円安の情勢を見れば「仕方がない」と受け入れざるえない部分もあるだろう。しかし物価高で生じた売上げがコストに転嫁されていないとすれば、家計を担う世代はどう見るだろうか。
昨年公正取引委員会は「優越的地位の濫用」に関する緊急調査を行った。受発注業者間において、コスト高騰分を取引価格に転嫁するための交渉が明示的に行われているかといった内容だ。その結果、取引価格が据え置かれており、事業活動への影響が大きいと名前が挙がった13の事業者名が公表された。
なお「独占禁止法または下請法の違反や、そのおそれを認定するものではない」とし、価格転嫁の推進を図っていく意向だ。公正取引委員会は「価格転嫁の連鎖が円滑に進んでいない可能性がある」とも指摘した。
ガソリン代に転嫁されているかは疑問
「優越的地位の濫用」を巡って公表された13の事業者のうち、一部には運送会社の名前が挙げられた。この原因のひとつが、運送業界における多重下請け構造だ。ラストワンマイルを担う宅配便、企業間の輸送を担うトラック輸送。どちらも発注元→元請け→2次下請け→3次下請け→4次下請け……といったピラミッドが存在する。間に入る企業が多いほど、中間マージンが発生する仕組みだ。今回指摘を受けた企業もこの仕組みの中にいる。
また経済産業省の調べによれば、物流コストは極端な原油高が始まる前から上昇傾向にあるにも関わらず、高騰幅に見合ったトラックドライバーの所得上昇は見られていない。これら「下請け構造の存在」と「物流コスト上昇と所得上昇率の差分」を前提に、物価が高騰しただけで適正な運賃の収受が行われるかといえば、はなはだ疑問であった。
つまり原油高を理由として私たちが支払っている商品価格の高騰分は、実運送会社のガソリン代に回っておらず、間に介在する企業のポケットに入っている可能性があることを暗に示している。