ビジネスの環境が変化する中、企業の持続的な成長を実現するため、人材戦略をビジネスモデル、経営戦略と連動させる「人的資本経営」に注目が集まっている。
今年(2023年)3月期以降は、有価証券報告書を発行する大手企業約4000社を対象に、女性管理職比率などの従業員状況、人材育成方針ほかのサスティナビリティ情報といった人的資本の情報開示が義務付けられる。
そうした中、パソナグループで人材育成事業などを展開するキャプランは、日本の上場・非上場企業249社を対象に「人的資本開示に関する実態調査」を実施。開示の義務化を前に、企業の取り組み状況が明らかになった。
「人的資本の情報開示」に取り組んでいるかを聞くと、すでに開始している企業は「取り組みを継続中」(10%)、「取り組みを開始した段階」(8.8%)を合わせて全体の2割弱となったほか、上場企業においても合計約3割にとどまった。
Q. 人的資本の情報開示に取り組んでいるか?
人的資本の情報開示に取り組んでいる、または準備中と答えた企業に取り組む理由を尋ねたところ、全体の半数超が「人的資本経営の推進のため」と回答。上場企業については同回答に続き、約6割が「開示の義務化」をあげ、「投資家からの要望」「コーポレート・ガバナンスコードの改訂」(いずれも約3割)が上位に入るなど、外的要因が目立った(以下、すべて複数回答可)。
一方で、非上場企業では「人材定着を図るため」(35.4%)と「求める人材を採用していくため」(34.1%)がいずれも上場企業を上回り、より直接的な経営効果を求めて人的資本の開示に取り組んでいることが見て取れた。
さらに、開示に取り組む企業にそのフェーズを質問すると、全体の約半数が「従業員データの収集」と回答。上場企業では「従業員データの可視化」が最多で6割を占め、取り組みの初期フェーズにいる企業が多いことがわかった。
また、上場・非上場企業ともに、データの収集・可視化に続く工程「可視化データの定量把握・分析」や、データに基づいて施策を立案する「人材戦略のブラッシュアップ」に取り組む企業は少なく、いずれも約3割以下となった。
開示のネックや課題については、「可視化データの定量把握・分析」が全体と上場企業で最多となり、それぞれ43.1%、49.1%という結果に。上場企業ではそれに「人材戦略のブラッシュアップ」や「シナリオ策定」(いずれも43.6%)が続いた。一方、非上場企業では「人員不足」(28%)や「経営層との合意形成」(26.8%)が、上場企業を上回った。
Q. 人的資本開示のネックや課題は?
人的資本開示における課題や懸念として寄せられた声には、「開示の対象や範囲のイメージがつかめない」「開示する数値の算出方法が明確でない」というノウハウに関するものから、「対応に伴う人的リソース不足」や「システム導入コスト」を心配するもの、「開示が経営に寄与せず負担になる懸念」という経営へのネガティブな影響を案ずるものまでが並んだ。
人的資本の開示義務化まで、あと少し。様々な課題に追われる企業が、少なくないようだ。