もし科学者チームの主張が本当なら、暗号を解読する量子コンピュータは技術的にはすぐそこにあることになる。しかしこの論文は多くの疑念を引き起こし、中にはでっち上げというレッテルを貼る人もいる。
批判的な人々は、シュノアのアルゴリズムで記されたプロセスが、この論文が主張するように本当に大規模に実現できるかどうか、当然ながら懐疑的だ。中国の科学者チームは、素数パズルの解明やRSA暗号の解読に使われた量子サブルーチンである「QAOA(量子近似最適化アルゴリズム)の収束性が曖昧なため、アルゴリズムの量子スピードアップははっきりしない」と認めてさえいる。これは、自分たちのアルゴリズムが、本物のコンピュータでより多くの量子ビットを使って試されたときにうまくいくかどうかわからないということを示唆している。
誰かが裏庭でフェンスを越えて隣の家の庭まで飛ぶロケットを作ったから、月に宇宙船を着陸させる方法を見つけたと主張するようなものだ。
それでも、その人は距離を見誤ったかもしれないが、正しい道具を手にしている。
そういう意味で、中国がやったことは方向性としては重要だ。さらに論文を読み進めると、彼らの成果はハイブリッドシステム、つまり計算のために古典的要素と量子的要素を組み合わせたものを使うことでもたらされたことがわかる。このようなシステムは、以前のコラムで紹介した中国の量子暗号解読の研究でも使われていた。
つまり、2040年までに完成するかもしれない理論上エラーのない量子マシンであるモノリシックな大規模量子コンピュータがなくても暗号解読ができることを意味する。ハイブリッドツールを使えば、エラーが起こりやすい現在の「ノイズの多い」量子コンピュータでもただちに処理を開始することができる。
だからこそ、バイデン政権が「国家安全保障に関する覚書」のような大統領令を出し、各省庁に耐量子基準の早期導入を促したのは正しかった。一方で、議会もカリフォルニア州選出の下院議員ロ・カーナが最初に提案した「量子コンピューティングサイバーセキュリティ準備法案」を可決した。同時に、政府は量子暗号解読の競争において、量子単独ではなく、ハイブリッドルートでも取り組みを加速させる必要がある。
その一方で民間の企業や機関は、データやネットワークの未来のために耐量子ソリューションの採用を加速させなければならない。
量子コンピュータ技術を使って暗号解読する日へのタイムラインは毎回少しずつ短くなっていくからだ。
(forbes.com 原文)