ビジネス

2015.06.23

シリコンバレーベンチャーキャピタルCEOインタビュー「第二のザッカーバーグは日本から生まれる」

「Fenox Venture Capital」のアニス・ウッザマンCEO(フォーブスジャパン7月号より)

シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル「Fenox Venture Capital」のアニス・ウッザマンCEOは、大の知日派。
多くの日本人クライアントと接する中で、日本人研究者がもつポテンシャルに大きな可能性を見出す。


日本の技術力やサービスは、世界のアントレプレナーよりも劣っているのでしょうか。今後、日本から第二のグーグルやフェイスブックは誕生しないのでしょうか。答えはNoです。

私には東京工業大学工学部で学んだ経験があります。東工大に限らず日本には優れた研究所がたくさんあるわけですが、大学の研究者はなかなかスタートアップを立ち上げようとはしません。研究がまるで個人的趣味のようになっており、スタートアップを作って世界へ打って出ようという発想が乏しいのです。

日本人は男性も女性も総じてシャイですが、とりわけエンジニアは「ディープ・シャイ」だと感じます。高い技術力をもち、技術を製品やサービスに結びつける能力があるにもかかわらず、彼らは自分に自信をもっていません。私の目から見て、日本のエンジニアリングのレベルは相当高いと思います。シリコンバレーの企業と同等のレベルとポテンシャルをもっていますし、日本の大学にはセルゲイ・ブリンやラリー・ペイジ(グーグルの共同創業者)と変わらない人たちが大勢存在するのです。

研究所の中に眠っているエンジニアの技術力を生かして起業すれば、日本からも世界レベルの新しい企業が必ず生まれます。ノーベル賞を狙えるほどの研究者であっても、シャイだからといって内に閉じこもっていては世界で勝負できません。スタンフォード大学には「StartX」「BASES」というアントレプレナーシップ支援の組織があり、研究者のスタートアップ立ち上げを応援します。同じことが日本の大学でもできないはずはありません。政府と教育機関は彼らを研究所から引っ張り出し、自信をもてるような支援を積極的にやるべきではないでしょうか。

日本のコア技術が世界で輝くとき

今の日本企業は、ほとんどが第二次世界大戦後にできたところばかりです。戦後の復興期と高度経済成長期の日本人は、アントレプレナーシップとイノベーションのマインドセットを確かにもっていました。ところがそれから50年後、今の日本人はアントレプレナーシップもイノベーションもすっかり失ってしまったわけです。

教員も親もメディアも、すべての人々が考え方を変えるべきときがきました。「東大を卒業したら大企業に入って役員を目指せ」といった固定観念にとらわれることなく、「あなたの技術力と発想を生かしてスタートアップを作ってはどうか」「新しいアイデアがあるのなら挑戦してみればいい」と促すべきなのです。

私が言いたいのは悲観論ばかりではありません。日本の強みは、コンシューマー向けの浅いレベルの技術ではなくコア技術です。このところ日本でも、大学発のコア技術を生かしたスタートアップが続々と誕生しつつあります。たとえば九州大学の安達千波矢教授(科学技術アドバイザー)と、松下電工(現パナソニック電工)など民間での長い研究経歴がある安達淳治CTO(最高技術責任者)は、九州大学のコア技術を生かしてKYULUX(キューラックス)というスタートアップを立ち上げました。KYULUXはアメリカにも進出し、科学工学によって最先端の次世代LEDを作っています。山形県鶴岡市に拠点を置くSpiber(スパイバー)も、今や世界的に有名になりました。Spiberは慶應義塾大学の研究者が設立し、人工的なクモの糸状の繊維「QMONOS®」の量産化に成功しています。このような大学発のスタートアップが増えていくにつれ、日本がもつコア技術が世界で輝いていくでしょう。

かつては新しいアイデアを出したときに「そんなことを成功させた人は誰もいないし、自分たちにはできない」と言う人が多かったと思います。しかし、今の若い人たちは「誰もやったことがないから、自分たちにできるはずはない」とは言いません。なぜなら、自分たちにできないことは何もないとわかってしまいましたからね。

1984年生まれのマーク・ザッカーバーグは、ハーバード大学在学中の2004年にフェイスブックを立ち上げました。彼は30歳を迎える前にして、すでにフェイスブックという世界最大のソーシャル・プラットホームを作ってしまったわけです。ザッカーバーグのような成功者の存在は、日本の若いアントレプレナーにとって大きな自信になることでしょう。日本のアントレプレナーは、20代、30代の若い人たちばかりです。彼ら日本人も「第二のザッカーバーグ」になれるはずなのです。

フォーブス編集部 = 文 荒井香織 = 構成

この記事は 「Forbes JAPAN No.12 2015年7月号(2015/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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