LINEやWeChat、Kik、Snapchat、Facebook Messengerなどのメッセージングアプリらは何故、野菜の通販や送金サービス、タクシーの配車といった領域に手を広げるだろう? その理由は、無料でテキストメッセージを配信できるサービスでは、収益を上げることが困難だからだ。
英国のリサーチ企業Juniper Researchによると、SMSやWhatsAppなどのOTT(Over-The-Top)プレイヤーによるメッセージングの世界市場は、2014年の1,135億ドルから2019年には1,129億ドルに縮小するという。
一方で、メッセージアプリのトラフィックは大きく増え、2019年には現在の3倍に当たる100兆個のメッセージがやり取りされると見込まれている。しかし、「メッセージングの収益は、トラフィックと同じペースでは伸びない」とJuniper ResearchのアナリストLauren Foyeは分析している。
チャットアプリは、通信事業者のインフラを使うことによってサービスを拡大し、2012年には、通信事業者のSMSに取って代わる存在となった。通信事業者のビジネスを食い物にしたチャットアプリが、今度は自身のユーザーの食い物にされているのは皮肉な現実だ。チャットアプリが席巻するメッセージング市場だが、実はしっかり収益化ができているのはSMSの方であり、この傾向は当面変わらないと見られている。
Juniper Researchの予測では、2019年に見込まれるメッセージングの市場規模1,130億ドルのうち、WhatsAppやLINEなどのチャットアプリの売上シェアは僅か1%程度。依然として通信事業者のSMSが圧倒的な売上規模を持つという。
WeChatやLINE、KakaoTalkなど、アジアのチャットアプリは、メッセージング以外のサービス展開で世界をリードしている。しかし、これらのアプリも、PCの覇者であるFacebookやGoogleほどの広告収益を上げることはできていない。「こういったアプリでは従来の広告モデルが成り立ちにくい」とFoyeは分析している。
Juniper Researchによると、アジアのチャットアプリは広告収益を上げてはいるものの、それなりのクリック率を得るためには、今よりも広告品質を格段に高める必要があり、コスト負担が増えるという。
広告に代わる収益源を生み出すのは容易ではない。時には風変わりな戦略にも挑戦していく必要がある。例えば、LINEの収益の20%はLINEスタンプによるもので、60%はゲームからの収益だ。
しかしながら、LINEの親会社であるNaver社の直近の四半期実績は、ゲーム事業の不振で期待値を下回り、2014年度の純利益は前年から76%も下落した。Tencentが運営するWeChatの状況もLINEと似ている。
これらのアプリが目指すべき収益源が広告でないことは明らかだ。そもそも、アジアでは、欧米に比べて広告の利益率が低い。活路はアプリ内課金やLINE Pay、さらにはSnapchatのSnap Cashのような決済サービスにあると言える。
Juniper Researchによると、向こう4年間で市場全体が縮小するものの、企業によるユーザーへのメッセージング需要は拡大する。これは、チャットアプリの運営者にとっては明るい兆しだ。Juniper Researchはこの動きをA2P(application-to-person)と呼び、KikやFacebook Messengerが既に実践している。
「A2Pの成長を牽引するのは、主に銀行や証券会社などの金融機関だろう。A2Pによるメッセージングは、顧客に信頼と安心感をもたらすからだ」とFoyeは話す。
A2Pの良い事例がKikだ。Kikを利用する1,000万人の若者たちは、ヘッドホンメーカーの「Skullcandy」や、コメディ動画の配信サイト「Funny Or Die」などの広告主が配信したチャットボット(「ブランド・ボットとも呼ばれる」)と会話をしている。Facebook Messengerも最近、企業がユーザーとチャットできる法人アカウントへの登録を呼びかけており、アパレル企業のOverlandと、ベビー用品のセールサイトであるZulilyなどが活用を始めた。
世界最大のモバイルメッセージングサービスであるWhatsAppは、月間アクティブユーザー数が8億人に上る。WhatsAppも、企業が広告メッセージをユーザーに送信できるようにして収益を得るプランを示していたが、まだ実現には至っていない。