昨年、保険会社のUSAAは社員が職場でGoogle Glassを装着するのを禁止した。それはGoogle Glassの外見が奇妙すぎるという理由ではなく、顧客のプライバシーを侵害する潜在的リスクがあるからだった。USAAの経営陣は、ウェアラブルデバイスを装着した社員が、業務で知り得た情報を持ち去ることを警戒したのだ。
しかし、皮肉なことに、雇用主たちは2020年に向けて、ウェアラブルコンピュータを用いてこれとは逆のことをやろうとしている。社員にウェアラブルデバイスを装着させることでその行動を予測したり、従業員を管理する試みがはじまっているのだ。
コロラド州に本拠を置く、ウェアラブルデバイスに特化した市場調査会社、Tractica社によるとウェアラブル端末の企業活用はこの5年で驚くべきスピードで増加。2013年には約17万台だった企業のウェアラブル端末導入件数は、2020年には2,750万台に達すると推測している。
最近ではFitbitやJawboneなどのリストバンド、さらにはスマートウォッチの普及により、企業が社員の健康状態を管理することは以前より格段に容易になった。
「企業にとって最もコストがかかるものの一つが、従業員の健康管理(ヘルスケア)なんです」とSalesforce社の取締役のLindsey Irvineは言う。健康管理の失敗はすなわち、保険コストの増大を意味する。
「コストのうちの70%は食事や運動、ストレスなどに起因するものです。雇用主が求めているのは、この70%の費用を削減する方法なんです」
「これは、企業の人事管理における新しいトレンドと言えます」と話すのはTractica社の担当者。「今後は採用活動や社員のモチベーションの向上といったあらゆる場面で、ビッグデーの活用が推進されるでしょう」
そんな流れを受けて、JawboneやFitbitなどの企業は相次いで、ウェアラブルデバイスの業務活用プログラムを立ち上げた。Jawboneの「UP for Groups」というサービスでは、企業がデバイスを割引購入できるだけでなく、管理者向けに活動分析ソフトウェアもセットで販売するといった試みも行っている。
また、Salesforceが開発した「Salesforce Wear」というプラットフォームでは、企業の営業スタッフの行動や睡眠パターンが、「営業成績にどのような影響を与えるか」を分析可能だという。Salesforce Wearはアップルウォッチをはじめ、Mio、Jawbone、Fitbitなどのウェアラブルデバイスと連携した、企業向けアプリケーションを作ることを推進している。
情報をグランス(チラりと見ること)で取得可能なスマートウォッチは、スマートフォンよりも効率的なツールであることが分かってきている。スマートフォンも大変便利なツールではあるが、様々な機能がありすぎるために、従業員の気を散らす原因となることも指摘されているのだ。
しかし、どんな手段を用いるにしろ、ウェアラブルデバイスの普及につれて問題となるのは、冒頭に挙げたプライバシーや情報保護といった事柄だ。企業が大量の従業員の個人データを活用する場面においては、厳格な管理や運用体制の確立が必須のこととなりそうだ。