薬の飲み忘れは、患者の健康にはもちろんのこと、医療財政にも悪影響を与える。
高齢化社会を迎える日本にとっても、気になるサービスがアメリカで始まっている。
あれ、今日の分の薬は飲んだっけ?
こうした経験は誰にでもあるはずだ。高齢の親と離れて暮らす看護師のキャシー・ベネディッティ(38)にとっては、親の薬の飲み忘れは深刻な悩みである。
両親はそれぞれ最低16種の薬を処方されていることもあり、「(飲む量を前に)すっかり途方に暮れていた」という。「両親は、『もう薬箱を見るのもうんざり』と毎晩文句を言っていました」そこで、ベネディッティはあるサービスを使い始めた。米ニューハンプシャー州の服薬管理サービス「ピルパック」だ。同社は、投薬日時を記載した袋に処方薬を小分けしたうえで利用者に郵送するサービスを展開している。
アイデア自体は、決して新しくはない。だがビジネス化に成功したピルパックは、大手薬局チェーンの競合になる可能性を秘めている。実際、2013年創業の同社は、すでに投資家から1,280万ドル(約15億円)を調達しており、売り上げは推定1,500万ドルに達する。
共同創業者兼CEOのT・J・パーカー(29)は、薬剤師の父が薬の配達をしていたこともあり、早くから配送ビジネスに可能性を感じていた。それにインターネットを使うことで、さらに可能性が広がると考えたのである。
ピルパックでは、最も需要の多い薬400種を保管し、患者の処方箋に合わせて機械で薬を仕分け、配達している。
また現在、同社は服用時刻を知らせるスマートフォンアプリを開発中だという。ITに強い人ほど、メールで処方箋を更新したがることがわかったからだ。
現在、アメリカの人口の10%に当たる3,200万人が最低5種類の薬を処方されている。そして、05年に行われたある研究によると、アメリカ人の半数が医師の指示通りに服薬しない結果、同国の医療コストが1,000億ドルも増加している。もちろん、薬の服用を誤ることが健康にとって有害なのは言うまでもない。
ピルパックの成功は、財政にも体にもやさしいことかもしれない。
薬の小分け配達モデルが大手薬局チェーンにマネされることはないと考えている。人々が「薬局で薬を処方される生活に慣れてしまっている」こともあり、当面は変わらないと考えているからだ。
果たしてピルパック流の袋に小分けして配達するシステムが、主流になる日はくるのだろうか?