テクノロジー

2015.06.10 08:30

アップルが自動車産業に乗り出すべき10の理由

Apple CarPlay搭載のメルセデス・ベンツ (Photo by Harold Cunningham/Getty Images)

Apple CarPlay搭載のメルセデス・ベンツ (Photo by Harold Cunningham/Getty Images)



アップル の自動車業界進出への期待が高まっている。同社幹部ジェフ・ウィリアムスは先日、Re/Codeのカンファレンスで、意味深い発言をした。

「車というのは究極のモバイル端末ですよね。違いますか?」

ウィリアムスはアップルが今後どの業界に目を向けているかとの質問に答えてそう言ったのだ。「あらゆるカテゴリーをよく調べています。今後も引き続き検討し、どんな分野でイノベーションを起こせるかを考えています」

アップルが自動車産業に革命をもたらすことに疑念を抱く人がいるだろうか? 同社が21世紀のフォルクスワーゲン・ビートルを開発すると想像してみてほしい。高価なテスラではなく本物の「庶民の車」。シンプルでデザインが美しく、手の届く価格で、庶民の欲しがるものが付いている車だ。自動車産業は参入障壁が高い分野とも言われるが、畑違いの挑戦者が成功するとしたら、それはアップルだ。その理由を説明しよう。

1. アップルには金がある
自動車業界では昨年、設備投資と研究開発費に1330億ドルという途方もない巨額が投入された。GM一社だけでも、新製品、工場、テクノロジー費として、2014年に144億ドルを費やしており、今年はさらに20億ドル多くなる見込みだ。こういった莫大な資金の捻出についても、2000億ドルに及ぶ運転資金を持つアップルなら問題ではない。眉一つ動かさずにGMと互角の資金を確保できるだろう。

2. 販売網を確保できる
テスラモーターズは10万ドルの電気自動車を、直接消費者に売るために、2年前から州議会と闘っている。ジョージアやメリーランド、ネバダ、ニュージャージーの各州では成功したが、テキサスをはじめ、自動車ディーラーが政治的影響力を持つ他州では頑強な反対に突き当たっている。アップルなら、この闘争に加わってもロビー力は十分だ。
他州が時代遅れの法律を撤廃し始めるのも時間の問題となるだろう。その結果どうなるか想像していただきたい。ショッピング・モールの駐車場から試乗車に乗り、その後、アップル店舗へ戻って、iPadを買う客の隣で購入書類にサインすることになるかもしれない。


3.クルマの製造は外部に委託する
iPhoneの製造を中国のフォックスコンに委託したのと同様、アップルはクルマの製造をオーストリアのMagna SteyrやフィンランドのValmet Automotiveのような業者に委託すればいい。アップルは設計、エンジニアリング、マーケティングなど、自らが得意の分野だけに集中する。サプライチェーンの管理も楽なはずだ。大手自動車メーカーからぎりぎりまで追い詰められてきた自動車部品メーカーは、大喜びでアップルと取引するだろう。

4. アップルには負の遺産がない
アップルは設備の刷新が必要な古い工場を持たないし、業界のしがらみとも無縁だ。ゼネラル・モーターズとは違って、アップルの企業文化は真新しく活気に満ちている。CEOのティム・クックは思う存分、イノベーションに心血を注げるだろう。

5. テスラの後を追えばいい
テスラが1台ごとに損失を出しているのは確かだが、イーロン・マスクはここ数十年で初めて、一般大衆の意識に風穴をあける自動車ブランドを売り出したのだ。彼にアップルのような資金力があったら何ができたかを想像すればいい。アップルは安心してテスラの後に続けばいいのだ。

6.アップルのブランド価値を活かせる
自動車産業においては、ブランドイメージの向上やマーケティングに信じられないほどのコストがかかる。GMやフォードは自社のブランドが「かっこいい」ことを証明するために数億ドルを使うが、アップルは何もしなくても既にカッコイイのだ。自動車メーカーらが新モデルへのApple CarPlay搭載を急いでいるのもそのせいだ。

7.「アップルの車なら買う」層がいる
アップルは「アップル製品ならば無理をしても買いたい」という忠実な顧客らを世界に抱えている。そんなユーザーの思いに応える車を発表できれば、他社よりも高い価格でも売れるに違いない。

8.アップルは人材争奪戦にも勝てる
思うままに人材を集めることができる彼らは、すでに自動車産業のベテランを引き抜いている。テスラモーターズの社員には、契約時に25万ドルのボーナスを提示しているとの噂もある。

9.大ヒット車を1モデル作ればいい
アップルならば全ての市場セグメントで売るとか、ピックアップトラックの荷台側壁を保護するとか、儲からない「コンプライアンス・カー」(訳注:カリフォルニア大気資源局の規制に適合する電気自動車)の開発で頭を悩ませる必要がない。大ヒットするクルマを一台作ればいいというのがアップルの強みだ。

10.アップルならばリスクをとれる
アップルが仮に200億ドルを新車の開発に投入したら、これは業界最大の新車開発予算となる(ちなみに、キャデラック社は2020年までに8つの新型車、また次の10年でさらに2モデルを開発するために120億ドルを費やす計画だ)。しかも、その試みはアップルの保有する現金資産全体の約10%に過ぎない。他のメーカーからは大きな賭けに見える金額だが、アップルとしては失敗も想定範囲に置いた冒険ができる。

 
さて、ここまで述べてきたように、「アップルの自動車業界進出」は一見、全く理にかなったことに思える。あとはアップルがどのタイミングでそれを実行するかだろう。
しかし、私はやらないほうに賭ける。自動車産業の利益幅は小さく、通常は10パーセントを割るため、35~40パーセントの利益幅に慣れたアップルのようなハイテク企業が動くほど魅力はないと考えるのだ。

しかしながらアップルは自動車の利益の大半がソフトウェアとエレクトロニクスから来ることも知っている。アップルは恐らく自動車の開発に着手したと見られる。しかし、それは一般向けに車を売りたいからではなく、自動車メーカーに未来の車がどうあるべきかを見せるためだろう。
その後は自動車産業全体が、アップルのドアに行列を作ることになるだろう。

文=ジョアン·ミュラー(Forbes)/ 編集=上田裕資

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