医療機器開発のパイオニアとして知られ、富豪ランキングの常連でもあったジョン・アベル。
そんな彼が、慈善活動やベンチャー投資に情熱を傾け、第2の人生を歩んでいる。再生可能エネルギーの普及にも力を入れ、自身が暮らす村の電力まで供給するようになった彼はなぜ、「他人のため」に生きることに決めたのか。
(中略)
アベルが慈善活動の道に進むことを決めたのは、92年にボストン・サイエンティフィックが上場し、巨額の富を手にした直後だった。
「これは、まずいことになった。子どもたちが道を誤らないようにするにはどうしたらいいだろう」と考えたそうだ。いまのアベルの資産は、果たしてどれくらいなのだろう。
彼は自ら答えようとはしないが、ボストン・サイエンティフィックの株価をもとにフォーブスが試算したところ、08年3月の時点で15億ドル(約1,530億円)はあったと考えられる。もっとも、アベルはその年のうちに保有株式を売却し始めたのだが、彼いわく、意図的に資産を信託や私募投資信託に移しており、正確なところまで調べるのは至難の業だ。
「フォーブス400のリストから自分の名前を消すために一生懸命努力したからね」
慈善活動を始めるにあたり、人から助言を受けたりもしたが、そのなかでアベルがどうしても受け入れられなかったことがある。「活動の対象を絞る」ということだ。それはアベルのスタイルではない。むしろ、幅広い好奇心は自分の長所であるとさえ思っている。異なる分野の才能ある人々を結びつけることを楽しんでいる。それが、新たな道を切り開く方法だと確信しているからだ。「金銭面で活動を支援するからには、相手がうまくいくように力を貸したい」と考えるアベルは、自身が資金を提供するプログラムの担当者にこんなふうに伝えているという。
「君たちは、助成金を受けることができる。でも、もれなく私もついてくるよ」
(中略) アベルは“ 営利目的の慈善活動”に力を尽くすことが自分のライフワークだと考えている。それは、ボストン・サイエンティフィックで先端医療機器を開発していたときも同じこと。また、「非営利のベンチャーと比べ、営利を追求するベンチャーはやましいことをしている」という考えは間違っているとも考えている。
彼にとってベンチャー投資は「世界を変える」可能性のある事業でもあるのだ。