電動航空機アリスで「空のテスラ」を目指すイスラエル企業Eviationの野望

Eviationのアリス(同社提供)

航空業界が、ゼロエミッションへの歩みを加速させる中で、注目を集めるのがイスラエルで設立された電動航空機メーカー「Eviation」だ。同社のアリス(Alice)と呼ばれる航空機は、2基のモーターを搭載したエレガントな外観の世界初の完全電動コミューター機で、昨年9月に初飛行に成功した。

Eviationと、航空機向けの電動モーターのメーカー「MagniX」の経営権を握る63歳の投資家、リチャード・チャンドラーは、航空業界のビジネスに特別な思いを抱いている。彼の父方の叔父のジョージ・ワットは、第二次世界大戦中に英国空軍のテストパイロットとして、連合国初のジェットエンジンに携わった人物だった。母方の叔父のトニー・ギナは、自動車整備士から発明家に転身し、長年にわたって高出力の電動モーターの開発に携わっていた。

航空機の電動化は、CO2排出を減らせるだけでなく、エネルギーとメインテナンス費用の大幅な節約になる。電動モーターは可動部品が少なく、コストを40%から80%も節約できるとEviationは主張する。

近年は、空飛ぶタクシーと呼ばれるeVTOL(電動垂直離着陸機)が投資家の注目を集め、米国のジョビーアビエーション(Joby Aviation)などの企業が、莫大な資金を集めているが、チャンドラーは、既存の小型航空機を電動化するアイデアに魅了された。この方法であれば一から機体を製造するよりもコストを抑えられ、規制当局の承認を得るためのハードルも低いと考えられる。

2019年にチャンドラーは、イスラエルのスタートアップEviationの70%の株式を取得し、その夢の実現に乗り出した。同社の9人乗りの電動航空機のアリスの価格は、700万ドルから800万ドル(約10億円)と、同程度の座席数のターボプロップ機の2倍以上で、航続距離も最大400キロ程度と短いが、彼は、この飛行機が航空業界における大きな変化の先駆けになると信じている。

Eviationはまだ意味のある収益をあげていないが、MagniXは2021年にNASAと7400万ドルの契約を締結するなど、航空機の電動化を目指す顧客にモーターを販売している。バイオ企業のユナイテッド・セラピューティクスは、移植用の臓器を届けるために、MagniXで電動化したロビンソンR44ヘリコプターで1時間の飛行を目指している。

マッキンゼーによると、世界でおよそ1万2000機の古い小型飛行機がバッテリー電気やハイブリッドシステムへの転換に適しているという。MagniXは、ハイブリッドシステムの開発にも着手しており、南カリフォルニアのスタートアップ「ユニバーサル・ハイドロゲン(Universal Hydrogen)」と共同で、40人乗りのリージョナルジェットを、燃料電池で駆動させるプロジェクトを始動した。
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編集=上田裕資

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