10代は「青春」を失ったのか? ドイツ国民の3分の2に届いた広告

「Penny | The Wish」より

昨年のサッカーW杯での日本代表の活躍を見て日本に居ながら熱狂する若者たち、大晦日のカウントダウンで尋常ではなく盛り上がる渋谷の人々。

ニュース映像でそういった場面を目にすると、ここ2~3年のコロナ禍による抑圧された生活が、10代を中心とする若者たちにいかに多くの圧迫を与えていたかが、実感される。

ドイツでは、ロックダウンなど日本より強い措置も行われ、10代が受けたメンタルへのダメージも相当なものがあったと思われる。しかし、そのことが公的に指摘されたり認識されることは、ほとんどなかった。

そうした状況にディスカウント・スーパーマーケットのPENNYがチャレンジしたのが、The Wish(願い / 願望)である。

このキャンペーンは、昨年6月にフランスで開催されたカンヌライオンズ2022で、フィルムクラフト部門グランプリなどを受賞した。カンヌライオンズとは、世界の広告界やマーケティング界で飛びぬけて大きな影響力を持つアワ−ドである。

「失った青春を取り戻して欲しい」

2021年11月に公開された中心的コンテンツである4分弱の動画は、10代の息子が母親に「クリスマスプレゼントには、何が欲しい?」と尋ねるシーンから始まる。それに応える形で、母親が、息子にして欲しかったこと(コロナ禍で出来なかったこと)を、次々と語り始める。

「家にばかりいないで、夜に出かけて欲しかった」

「酔いつぶれたあなたを、父さんが迎えに行くとか」

「宿題もやらずに、パーティに出かけるとか」

映像は息子がそうしたシーンを実践している場面を映し出す。女の子と一夜をともにした後、彼女に振られて傷つき、それでも友人と旅に出かけたり……。


Penny | The Wish (english subs)

「あなたが失った青春を取り戻して欲しいの」と母親は痛切に訴える。それに対して息子は、有名ロックバンドのヒット曲の歌詞を独白し始め、やがて静かに歌い始める。「今しかないんだよ。今生きているこの瞬間を生きたいのさ。これが僕の人生だから」と。

最後には、テレビCMにおける商品紹介に当たる、プレゼント告知の紹介文が映し出される。「あなたが失った多くの体験を取り戻させてあげるために、5000の体験をプレゼントとして用意しました。我々の特設サイトを訪れてください(大意)」。この体験プレゼントには、世界旅行や卒業パーティ、そして宿泊施設付きのPENNYでのアルバイト職も含まれていたという。
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文=佐藤達郎

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